すきなもの雑記

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木ノ下歌舞伎「義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー」

ずっと気になっていた木ノ下歌舞伎の「義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー」が配信されているということで視聴しました

本編に加え、木ノ下裕一氏の「よくわかる解説」が引き続き視聴できる形。

以前、杉原邦生さんと対談されていた時に古典詳しい人だなあと思っていたけど、解説がわかりやすくて面白い!

今回の解説の中で義経千本桜は現代で言う歴史ifモノ」と表現してらっしゃいました

それを踏まえてキノカブ千本桜は3部構成になっていると。

〜実際の平家没落を口語で

義経千本桜前段までを振り返り

〜渡海屋・大物浦

大部分が口語になったことで物語の輪郭が見えて、すごくリアリティを感じました

特に最後知盛が言う「俺たちは生まれる前から殺し殺され殺し殺され殺し殺され…」という台詞。

本文の現代訳になっている、且つ「殺し殺され」という強い言葉が並ぶことで一気に源平の戦いが現実に近くなり。

江戸時代の人は歌舞伎を通して合戦を近くに感じていたのかな。

その感覚が少し理解できた気がしました

 

典侍局が幼い安徳帝の入水をすすめるときも、

この世にはもう苦しみしかないから波の下の都に行こう、と言うんですよ

そんな子供騙し。

でもそれは真実でもあって、このまま残っていたら捕らえられてどんな目に遭うかわからない…

大人達も波の下に安息の地があると信じたかっただろう

 

知盛も元をたどると悪逆非道を尽くした清盛の子。そして討ち取る義経もこのあと頼朝に追われる身になる。

歌舞伎と因果って切っても切れない関係で、それを描いた当時の作家たち、それに魅せられた当時の人々のことを感じていたい。

江戸時代に思いを馳せるってそういうことなのかなぁと思ったりします。

 

しかしそこはもちろん現代の作品なので

現代劇のような演出もあり。

ステージは菱形で、少し前方に向かって斜めに下がっていました

何箇所かステージパネルがガラス張りになっていて、それがパカッと外れて下に物が落とせるような仕様。

作中でキーになっているのは衣服。

巧みに死のモチーフとして扱われていて、劇中で役が死亡すると衣を脱いで退場します

置き捨てられた衣は無機物で、だけど人の形をしていて、まるで死体のよう。

ボルタンスキーのインスタレーションを連想しました

劇中死人が増えすぎたためステージには衣服が積み重なり、それを邪魔とでも言うように、演者自らステージの穴の中に落としていきます

 

あくまでシンプルで、

押し付けがましい演出や狙いがなく、

そのぶん役者の演技で想像を巡らせる。

歌舞伎役者の歌舞伎に対して、本質を間違えたら寝首をかくぞ、という気概を見せられたようで、

とても好きな舞台でした。

次回が楽しみです。