すきなもの雑記

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勧善懲悪に背を向けて 令和四年2月大歌舞伎「鼠小僧次郎吉」

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3部後半は鼠小僧次郎吉

2時間強を休憩無しで突っ走ります

上のポスターにもある通り、外題は「鼠小紋春着雛形」、黙阿弥の原作通りだと「鼠小紋東君新形」だそうで、今回はwikipediaのあらすじを読んだ限り、黙阿弥のホンに沿っています(大元の原案は講談らしい)

ただし、黙阿弥の通しものは序幕〜2,3幕〜大詰で休憩を挟んでの4時間程度がフォーマットなことが多い。

けっこう端折られていると思われ、筋書を読まないと不明なことが多かったので、それを踏まえて大変申し訳なくも私の想像でストーリーを埋めてみます

 

◆◆◆◆◆◆

「オヤ、こんな所に赤ん坊が」

江戸時代には庚申の日生まれは泥棒になるという迷信があり、その日生まれた捨て子をお熊という盗人が拾います

普段のお熊ならほうっておきますが、何かの役に立つかもしれぬと幸蔵という名をつけ育てることに

幸蔵はまっすぐな子に育ちますが、迷信通り手癖の悪さを持ち合わせています

成長し表の顔は易者の平澤左膳、裏の顔は泥棒鼠小僧として、盗んだ金は貧しいものに分け与え民衆の味方となります

そんな時に出会ったのが若菜屋の娘松山

「アレ、お前さん何か落としたヨ」

「こりゃあいけねえ大事な百両」

「そんならお前は、鼠小僧かいな」

幸蔵と松山は恋仲になり、やがて所帯を持ちますが、松山は遊女となり店と親からは見限られ、やがて幸蔵も姿を消します

松山は心労から鳥目(夜は目が見えなくなる障がい)となりますが、愛しい幸蔵の行方を探し続けています

 

一方で、芸者のお元と刀屋の新助は将来を誓い合った仲

しかし美しいお元に平岡という侍が横恋慕し、お熊が入れ知恵して新助の打った刀を奪うばかりでなく百両の借金を負わせます

 

時を同じくして、稲毛家のお屋敷の近く

稲毛の重臣杉田の娘おみつは蝶よ花よと育てられ、お屋敷の辻番(警備員)与惣兵衛の息子、与之助に恋しています

すっかり遅くなり与之助はおみつをお屋敷まで送りますが、すれ違うのは新助とお元

大金を返すあてもなく、ふたりで死ぬ算段をしていると、駕籠で通りかかった幸蔵はふたりを放っておけず、稲毛家のお屋敷に忍び込んで百両を調達します

「ちょっとお前さん、」

塀を越えるのを見かけた与惣兵衛は幸蔵を年の頃が同じであろう自分が捨てた子に重ね、捕まえることができない不甲斐ない自分を殺してほしいと詰め寄ります

しかし自分にはできないと断る幸蔵…

 

ある日易者の幸蔵のもとに三吉と名乗る少年がやってきます

「ふう、寒いよぉ手は霜焼けだらけだ」

少年はお元の弟で、お元と新助が稲毛の百両を盗んだ罪で裁きを受けるとのこと。幸蔵には思い当たる節があるので、三吉を丁寧にもてなし安心させます

入れ替わりに現れた稲毛の従者からは盗まれた日に番をしていた杉田が罪に問われ、与惣兵衛も冤罪で処罰、おみつがいなくなったということを知らされます

「チョイトお嬢さん、道を訪ねたいんだがね」

「ええ、どちらへ?  アッ何をなさるのですか…!」

床に落ちていた簪から、おみつがお熊に連れ去られ押入れに監禁されていることを知り、お熊の戻る前におみつを逃します

「モシ家の方、しばらく軒下を貸してくださいませ…あの、このあたりの易者の平澤左膳さまのお宅をご存知ありませんか…」

一人になった幸蔵の家の軒下に鳥目の松山が杖をついて現れます。幸蔵は名乗らぬまま松山に金を渡し行かせます

戻ったお熊はおみつを逃した幸蔵を責めますが、幸蔵はお熊を諭します。

しかし激怒したお熊と揉み合いになり、幸蔵は誤ってお熊を斬ってしまいます。そして与惣兵衛の子である証の守り袋を手に入れ、己の出自を確信します

夜が明けて目が見えるようになった松山が再び幸蔵の家を訪ね、

「やっぱりお前は、幸蔵さん…!」

「何故戻ってきた、松山」

良かれと思ってした盗みが人を不幸にしていると知った幸蔵。後のことを松山に託し、罪のない人たちが罰せられる前に名乗り出ようと、幸蔵は奉行所へ向かいます。

白砂に並ぶお元、新助、与惣兵衛の所へ与之助と新助の伯母のお高が無実を訴えに来ます

幸蔵は自ら縄にかかり、実の父与惣兵衛と今生の別れを嘆きます

奉行の早瀬弥十郎は人格者

幸蔵は早瀬に召し捕られることを覚悟しますが、他のお役人たちの横暴に我慢できず縄抜けします

雪の中だんまりでその場を逃げおおせる幸蔵、早瀬とは後日の再会となります……

◆◆◆◆◆◆

 

ちょっと乱暴ではありますが、描かれていない部分を埋めてみました、正しいあらすじではありませんのであしからず

 

そもそも黙阿弥がホン書いてなきゃ、わたしはここまで歌舞伎にはまってないわけで

 

黙阿弥の何が面白いかって、決まりごとが必ずあるところ

 

1.人物相関が複雑に入り乱れる

劇中で明かされるもの多数。歌舞伎の定型「実ハ」が複雑さを助長しています

そのため、頭に入れてから見ないとめちゃくちゃ混乱します

筋書きによると松山は元々質屋である若菜屋の娘であり、新助の伯母お高(最後に白砂に呼ばれる誰これ?ってなる人)は現在若菜屋の後妻に入っているようです

もしかしたら松山と幸蔵が出逢った頃、年若い新助お元とすれ違っていたのかも?

 

2.「百両」と「名刀の紛失」と「名刀の詮議」というトピック

今も昔も人の業、百両が人の間を行き来することで、人の心を狂わせます

鼠小僧は行動理由がそもそも金

主に大金を手にしてもビビらない悪党たちが物語を動かすので、まるでカードゲームの成行きを見ているような感じ

鼠小僧では善良な新助が刀屋として登場、今回の演出では菊一文字は序幕しか出てきません

 

3.江戸時代ならではの迷信と干支の動物

現代なら本気にしないような迷信がストーリー展開に関係してきたり、十二支の動物が登場したりする

鼠小僧は原案もあるし「鼠」と言っているので、関係する十二支は鼠。

 

とにかく主人公の幸蔵がかっこいい

盗みを働き、義母を殺し、女を捨て…

なんかやってること全然褒められないんだけど、雰囲気がしっとりしてるんですね

勧善懲悪のヒーローっていうよりはミニシアター系の主人公みたいな…

稲毛のお屋敷に盗みに入るときは、実際に足場を登って屋根裏に上がるんです

結構な高さだからドキドキする…

詰のだんまりがすごいですね、雪を撒き、声で撹乱し、坂を滑り降り、動きをシンクロさせたりして、動きは見えているけど闇の中を感じられます

丑之助さんはびっくりするくらいの長台詞!花道の退場は(3階席で見えてないけど)拍手喝采でした

毎日やるとはいえ、すごい

米吉くんのおみつ、与之助がいないと知るとつまんないのーって感じで石をケリケリ、手を繋いでくれないと一緒に帰らないもん、とか…

可愛すぎか。

所作だけでなくビジュアルも可愛らしいんですよね、これからも突き詰めていってほしいです

亀蔵さんの真面目な与之助もハマってて、この二人相当お似合いでした

松山の雀右衛門さんは哀れさが際立っていて寒そうだった…袖萩と違って子供も連れてないし

新悟さんと巳っくんはしっとりカップルでこちらもお似合い

巳っくんはえげつない悪役も好青年もどちらもニンにみえてしまう芸達者、声をがつっと使い分けているのがいいのかもしれない

 

代役、一部公演中止もありましたが2回見れて良かった

演出をブラッシュアップして何度でも演じてほしい、また見たいと思う面白さでした