すきなもの雑記

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新春黙阿弥フェス!令和五年 壽 初春大歌舞伎

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黙阿弥の作品からにじみ出る人間の闇の部分と世を斜めから見る視点が好きです。黙阿弥がいなかったら、三人吉三という作品がなかったら、私はそこまで歌舞伎に魅力を感じていなかったでしょう。今月は3部全てで黙阿弥の作品が上演されています

 

1部

卯春歌舞伎草子

華やかな舞踊作品。始まりは男衆の舞踊でその後右源太左源太が登場、出雲阿国と名古屋山三がひと踊りすると女衆が鐘大鼓で盛り上げ、最後は全員で踊ります

右源太勘九郎さんの扇さばきが美しい。緩急とかちょっとした力加減とかなんでしょうか。澤瀉屋中村屋勢に鷹之資さん玉太郎さん壱太郎さん千之助さん染五郎さんと…いっぱい出てます

弁天娘夫婦白浪

※復習

松屋と稲瀬川勢揃いの場のみがかかる場合は弁天娘夫婦白浪という外題。通称白浪五人男。通しの場合は青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)という外題

通しの場合は胡蝶の香合をめぐる物語となる。香合は千寿姫の持ち物だが弁天小僧に奪われ、それがきっかけで弁天小僧は日本駄右衛門の手下となる。赤星は死のうとする千寿姫の近くに居合わせ、親戚のために盗んだ百両がきっかけで駄右衛門の手下、忠信利平と出会う。忠信利平の父はかつて赤星に仕えていたが金を持ち逃げしていた。弁天小僧の育ての親は南郷力丸の父だが、浜松屋の亭主幸兵衛は弁天小僧菊之助の実の父、浜松屋の倅宗之助は日本駄右衛門の実の子だった。大詰で鎌倉時代の役人、青砥藤綱が日本駄右衛門を追い詰める

 

團菊祭では右近くんで見ましたが、今回は愛之助さんが弁天小僧。主役が上方の役者さんということで型の違いはあるのか?私にはよくわかりませんでした

でもバレたあとの勘九郎さん南郷との掛け合いは最高。

解説によると、冒頭でガラの悪い客が仕立ての催促に来ますが、これが勢揃いの時に5人が着ている着物なのだそう。勢揃いの場の前に浜松屋が渡し5人は川伝いに逃げ土手から上がって来た想定だそう。倅の宗之助がなぜかフューチャーされるのも実は日本駄右衛門の子どもだからなんですね。謎なのは鳶頭。歌舞伎の場合、登場はほとんどが花道かスッポンか奥の襖から。鳶頭はいつの間にか登場し、かっこいい感じで話を聞いていなして…それで終わり。全体のあらすじを把握してもそこまで重要な役ではないっぽいのに(宗之助は全体で見ると重要な役だとわかる)不思議です。今回の又五郎さんがまためちゃくちゃカッコいいのですよ。子役さんもきちんと演技していて良かったです

主人公は弁天小僧ですが、少年漫画のように強さのインフレがあり、日本駄右衛門が最強、弁天小僧の相棒、南郷力丸は弁天小僧の同等以上の強さだと思われます。強さ以外の主人公の位置づけは「三銃士」か近いかもしれないですね。

通し、やらないわけではなさそうなので1度見てみたいです。しかしながら、パッと見て「通し狂言 青砥稿花紅彩画」より「弁天娘夫婦白浪」の方が集客が良さそう

 

2部

壽絵方曽我

人間万事金世中

黙阿弥が明治を舞台に描いた物語。海外の戯曲が原作のため毛色は違う変化球的作品。

中でも勢左衛門とおらんとおしなの一家ががめつくい。扇雀さん虎之介さんのリアル親子のガヤ芝居が可愛くて可愛くて。なかなか歌舞伎でこういった描かれ方をする女性っていないのでは?対象的に主役格の林之助とおくらは清廉潔白。この二人が結ばれてハッピーエンドとなります

 

3部

十六夜清心

オーソドックスともいえる黙阿弥の通しもの。黙阿弥芝居の定石、金子は出てきますが、紛失した刀と十二支は出てこないですね。他に、よくあるのが実は、で正体をガラリと変えてくる登場人物。

この演目、下男杢助の視点で見るとインファナルアフェアみたいで楽しかったです。

 

ーーー杢助(亀鶴)は手代の身分を隠して白蓮(梅玉)に仕えている。白蓮の正体は大泥棒の大寺正兵衛。杢助は白蓮が尻尾を出す隙を狙っている。

場所は変わって稲瀬川。寺の金が紛失し、清心(幸四郎)は恋人十六夜七之助)と心中。しかし十六夜は死にきれず白蓮に助け出される。一方清心も死にきれず何度も死のうとするうちに悟りを開き、通りがかった求女(壱太郎)の懐の金に目をつけ殺してしまう。十六夜は白蓮のもとで暮らしていたが、清心の行方が気がかりで白蓮の許しを得て剃髪し清心を探す旅に出る。

やがて清心を見つけ出し戻ってきたおさよ(十六夜)は豹変。清心も「鬼薊の清吉」と名を変え、ゆすりたかりで生計を立てていた。白蓮に金の無心をする二人だったが、金の封印から、心中の原因となった寺の金を盗んだのは白蓮だったと気付く清心。白蓮は自分が大泥棒だと正体を明かすが、一足早く杢助が軍勢を率いて召し捕りに来たのであった…!

 

心中の所作が官能的。お二人のコンビは見たことがあったけど、こんな雰囲気は初めてかもしれない。そのあとの場の、剃髪して恥ずかしがるおさよも何だかそんな感じで、「いろんな男に身体を預けてきた過去」が七之助さんから滲み出るようでした。

で、打って変わってゆすりの場面は強欲で若干尻に敷かれているカップルにガラリと変化。素人(私)は二人が再会するという箱根の場がカットされてることに驚くんですが、これは現在の定石らしく元々箱根の場はそんなに出ないようです。

もう少し長いVerだと求女がおさよの弟だとわかったりするとか。あまりに心中が美しく、当時このようなお芝居が作られた理由がわかった気がしました