すきなもの雑記

話したいことを話したいだけ

楽しそうで何より 令和五年鳳凰祭4月大歌舞伎

f:id:em378794:20230429170403j:image

というわけで、月組のショーDeepSeaの前に歌舞伎座「新・陰陽師」の感想を。1週間で応天の門陰陽師の舞台を見るなんて、本当人生何があるかわかりません。

少し話を横道にそらして、同じ夢枕獏氏の「沙門空海、唐の国にて鬼と宴す」の話沙門空海 唐の国にて鬼と宴す - すきなもの雑記

この時もちらっと触れましたが、空海と逸勢は受動的バディなので、小説は面白く読めてもメディアミックス化した時にうまく動いてくれるとは限らないんですね。そのためストーリー面で酷評されていたのが本作を映画化した「空海」。そもそも演出面で「???」って感じだったのが歌舞伎化した「幻想神空海」でした。

さてでは今回、猿之助さんが陰陽師という同じようなキャラクター構成のストーリーにどのような演出を加えたかというと…

悪役をメインに据える。

原作「陰陽師  滝夜叉姫ノ巻」では回想として語られていた部分を序幕に持ってきました。構成を入れ子にせず、将門(巳之助)と藤太(福之助)の再会をストレートに描きます。歌舞伎の醍醐味である立ち回りも。そのため清明(隼人)と博雅(染五郎)は出番なし。陰陽師モノとしてみると肩透かしですが、歌舞伎って悪い奴か強い奴が主人公の話が多いのでとても歌舞伎っぽく仕上がりました。

将門は安心安定の巳っくん。首塚で首だけ出してしゃべり始めたときは怖すぎて笑ってしまった。妻子をなぶり殺しにされ悲しみのあまり変異していく恐ろしくも哀れな役でした。巳っくんは声がいいですよね。聞き取りやすく、ちょっと棒読みっぽく聞こえそうなところを味に変えていて、どんな種類の役でも的確に演じています。ちなみに2月は三人吉三の十三郎で、これはこれであっているのが不思議。

藤太役福之助さんは歌舞伎独特のかなの語尾を崩しながら発音する感じがとても上手い。打ち出し方にいい意味で若さがなく、幹部俳優が一目置くのも納得だなと思いました。

藤太の妻、桔梗の前にコタロさん。藤太に連れ出されたかと思ったら東国の将門をスパイしてきます!って言ってて強すぎた。あと、将門に床上手言われて藤太に酌する手元が狂うのとか、脚本が良いなと思いました

将門を担ぎ上げる興世王にけんけん氏こと尾上右近さん。まず声がでかい。彼の元気と気合からもらえる感動があります。右近くんも声が聞き取りやすいです。けんけん氏は女方、特に八百屋お七とかお嬢吉三とかが好きなんですが悪役も良かったです。

そんな興世王と六方で退場する滝夜叉姫のかずくんこと壱太郎さん。タイトルロール通りのご活躍。普段も仲の良いけんけん氏とのコンビでばっちり息のあった六方でした。本当にふたりとも思いっきりできて楽しそうだった。博雅が一目惚れしちゃう糸滝も可愛らしく演じています

さて2幕でようやく清明と博雅が登場。あまりにも序幕のキャラが濃すぎて主役コンビは爽やかじゃないとバランスが取れない笑。柱にもたれるはーさんが清明ぽくて良かった。正直そつなさすぎてこのくらいの感想しか書けないです。

やはり若手に出番が振られてしまうと澤瀉屋の皆さんにあまり比重はなく。ちなみに澤瀉屋オンリーのキャストで妄想したら全然それでも回せるので、どこかでやっていただけると嬉しいですね。

大詰で登場するのは大蛇丸の鷹之資さん。大ちゃんもまた声がでかいし元気だし、踊りは目を惹く美しさ。本舞台に駆け足しても頭が全然ブレません。今回はぶっ返りもあり立ち回りもあり見せ場もりだくさんです

現代の芝居ではいかに場面転換をスムーズに行うかが考えられています。猿之助さん演出のため今作でも不自然な暗転やセットチェンジは一切なし、大詰前の大薩摩(浅葱幕の前で立ったまま演奏するやつ)は若い三味線と唄の方でしたがめちゃくちゃお上手だった!

そして良かったのが演出のほとんどが歌舞伎でよく見られる手法だったこと。首塚のまわりでだんまりがあったり、舞踊の場も入っていたり。

大詰で三上山の百足退治と興世王との立ち回りで後日の再会を誓うと口上になり猿之助さんの宙乗りが始まります。そんなことある?っていうくらい唐突に始まります。でもなんだか宙乗り見ちゃうとああ来てよかったなあってなるんですよね。これだけの声デカに囲まれながらも、猿之助さんの発声は別次元のように感じました。響きが違うというか。

というわけで、歌舞伎の特性に着目し歌舞伎の表現方法から逸脱せず、原作とは異なるアプローチで展開した「新・陰陽師」でした