10月、11月と御所五郎蔵を新版と古典版で比べることができ、やはり比較するという行為は客観性を生むんだなと痛感している今日このごろです
さて、12月は新橋演舞場で「朧の森に棲む」を幸四郎松也の主演役替りで
浦井健治主演で上演されています。この2つの演目は非常に似た性質を持っています。まるでシェイクスピアという源流を汲み、それぞれ流れに分かれて人々を潤す、支流の河川を流されるような体験でした
どちらも共通するのが【言葉で人を操り上り詰める主人公が、最期は破滅する物語】というストーリーの展開。さらに、行く末を暗示する【人ならざるもの】が現れる、懸想する女が自分の思い通りにはならない、そして恨みを買うほどに快感を覚える…という主人公の思考などが挙げられます
また、2つのカテゴリーが争うという点も主人公の成り上がりに絡んでおり、朧の森ではエイアン国とオーエ国の戦争、天保では飯岡一家と笹川一家の抗争が並行して描かれています
どちらの作品もストーリー展開はシェイクスピアの着想を元にし、朧の森は頼光の大江山酒呑童子を絡ませ、天保では講談の天保水滸伝を絡ませて描いたということでしょうか
ただし、朧の森は見ている途中で、キンタ=金時とライ=頼光がシュテンを退治するのかな?などと深読みして構えましたが、頼光四天王の設定は関係ないことがわかりました。天保水滸伝は見たことがないのでわかりません。こちらも歌舞伎版があり黙阿弥のホンが存在する模様。昭和初期を最後に途絶えているそうですが、もしかしたら忘れた頃に誰か復活してくれるかもね。wikiによると外題が「巌石碎瀑布勢力(がんせきくだくたきのせいりき)」だそうです。脳内では派手な本水がイメージされました
それではキャストの感想です
【朧の森】
こちらは見知った役者の座組です
松也版を見て、役替りだと松也さんってこんなに幸四郎さんに寄せるんだなと思ったのが率直な感想でした。台詞回しにすごく幸四郎さんぽさを感じました。対して、幸四郎さんは本当に何をしでかすかわからない漠然とした恐ろしさがある。どちらも色悪が似合う中で、真面目な色悪か天然な色悪か…みたいな空気の違いは感じました。
出色は猿弥さんのマダレ。メイクが効いて、破綻のない良い役です。ツナ(時蔵さん)はとても良いんだけど鬘の造形が合ってるのかよくわからない。初演と見比べるとダンスパートが日本舞踊ベースになっていますが、絶対にこっちのほうが良い。歌舞伎役者じゃないと作り出せない芸の見せどころ。素敵に仕上がってます。逆に歌唱パートは録音だったので、誰か〜!歌って〜!となりました。絶対生歌の方が良い
セットは比較的シンプルでした。御殿(?)はもう少し華やかでも良かったかも
客席に池の鯉をやらせるっていう演出はすごーく良かった!
【天保】
浦井さんを初めて見たんですが、ものすごいですね
台詞量が多いのか言い回しが難しいのか、結構噛んでる役者さんが多い中で、早口の台詞を言い淀み無し。頭を動かさない発声は何となく勘九郎さんと重なりました。
人数少ないカンパニーでも声量があり、迫力が伝わってきましたし、セットが2階建てでものすごく大きい。最後の立ち回りはさらに上の斜めになった屋上で行うので、ものすごい高さ。
珍しく目を引いたのが鬘。きれいに色が染められており、横向きのシルエットが丸くて良かったです
さて、客の入りに関して。朧の森は平日も満席に近く、逆に天保は土曜の夜で2階S席はガラガラでした
演舞場は大型バスでのツアー客が入っており、やはり集客に力を入れていた模様。幕の内弁当を食べて観劇っていうのが非日常感があっていいのかも。歌舞伎ファンも歌舞伎座と南座と公演のある中、うれしい悲鳴をあげながら通っているようでした。幸四郎さんの集客力に加え、松也さん右近くんのとうかぶコンビ(最近は音羽屋義兄弟と言うらしい)、時蔵さんや猿弥さんの新作出演という古典ファンへの訴求など、配役が発表されたときから層が厚く、また開幕しても期待を裏切らない満足の出来でした
東宝は帝劇でレミゼが開幕、話題作の桜の園が興行中…と、少し影に隠れてしまったような感じを受けました。同じような内容でキャパも場所も近いのだから、バスツアーを組めば集客できたのかも。それでも2階席16,000円は今の時代なかなか出費できないかもしれません