すきなもの雑記

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大江戸ミュージカル、それは救済…令和七年初春大歌舞伎「大富豪同心」

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中継で尻切れトンボに終わってしまい、気になっていた歌舞伎座夜の部「大富豪同心」幕見に年始めに行ってきました。これが、思ったより私の心が失っていたもの、欲していたものを示してくれました…それは弥次喜多のようなエンタメの気概とでも言うべきか 

配信も始まりましたので、改めて見ながら配役について語りたいと思います

まずは主演の主演の隼人さん。大河も始まり、今や飛ぶ鳥を落とす勢い。歌舞伎座のほとんどの人が主役である隼人さんの登場を待っていました。歌舞伎ではヤマトタケル、そして本作ドラマ版での主演を経て、これが本当の「真ん中に立つ」ということなんだと感じ入りました。抜擢で立つ、年功序列で立つ…いろんな主役の形がある中で、今回は名実ともに隼人さんが主役です。幕見席からでも隼人さんの立ち回りはよく映え、二役のキャラクターが分かりやすいのもエンタメ度が高くて良かったです。台詞の強弱が歌舞伎とは真逆というか、歌舞伎の台詞は文末に向かって強くなっていくことが多いですが、大富豪同心は口上の「これぎり」までもはんなりしていて雰囲気が可愛らしく作られていたのが良かったです

敵役、清少将は巳之助さん。この年代でやるなら巳っくんしかいないでしょう。2人は前の月も立ち回りがありました。

隼人さんと巳之助さんは團子さん染五郎さんのようにコンビで組むと赤と黒、王道と邪道、真っ直ぐが似合うはーさんと変化球を好む巳っくんという鮮やかな対比が見て取れます

キャラクターの造形が明快というのが今回の隼人さんの活きた点であるなら、清少将を演じた巳之助さんはどちらかというと緻密に細やかに演じるイメージです。傘から目だけを出して黒目をつー、と移動させていたのが中継映像では印象的でした。総踊りもぬるーっと完璧に踊ってたのが良かったですね。以前より身体の形をきれいにより分かりやすく見せることに意識されている気がします。丁寧な立ち回りでした。

前月の御所五郎蔵のように三角関係にはならないものの、ヒロイン格は壱太郎さん。ちょっと面白い美鈴でしたね。はーさんに美鈴は美しいなって言われて動揺してるのが可愛かったです。振り返ると出番はあまりなかったのかも。話が逸れますが、ドラマで卯之吉が美鈴に「夫婦になりましょ」って言ってたのが良かったです。壱くんは大富豪同心の前に「二人椀久」にも出ており、この演目が艶っぽすぎて非常に良く、可愛らしい爽やかさよりはぬるりとした色気や妖しさが持ち味の役者さんなんだなと思いました。そうなるとさらりとした隼人さんより、二人椀久で組んだ右近くんの情熱がしっくりきて、この三人のは言いようのない関係が見えてきます。

そんな右近くんは完全なる狂言回しの銀八。映画「十一人の賊軍」も「朧」もそんな感じの役回りですが、右近くんは本来は真ん中に立つタイプ。配信で見るとより頑張って演じてるなと思います。はーさんともタイプは違うがこれまた巳っくんと組むとくっきり色の違いが出るのが面白いところです。劇中ではかっぽれを披露したり強めにはーさんの肩を引っ叩いてたりしていました。幸四郎さんが後ろに透けて見えるので演技指導とかしたのかも。しかし幸四郎さんがこういう狂言回しぽい役回りをすると本当に何をするかわからないのが恐ろしいところで。親分と銀八、どっちをやろうか悩んだんじゃないかな。(おそらく出雲守ははなからやるつもりはなかったんじゃないだろうか)で、立ち回りのある親分を選んだと。締め方も原作通りというし、今回の脚本演出、結構良かったと思います。

亀鶴さんと笑三郎さんがインパクト強めで良かったです。猿弥さんは今回はチョイ悪役って感じでしたね。沢田役も見たかったです笑。

 

宝塚のオタクも兼ねているせいか、最後の総踊りがとにかく幸せで、毎年恒例の歌舞伎座納涼の3部に持ってきてほしい。そう願いながら東銀座の交差点を半泣きで渡ったのでした