すきなもの雑記

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恐怖の人肉生ハム…酒呑童子ビギンズ@サントリー美術館

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サントリー美術館酒呑童子ビギンズ」に行ってきました。あまりにも良すぎて妄想がはかどります

この時もめちゃくちゃはかどってます

さて、今回はサントリー美術館が修復、公開した狩野元信の酒呑童子絵巻をベースに(サントリー本)、その前日譚が付け加えられたライプツィヒの博物館の収蔵品(ライプツィヒ本)や描かれた経緯などをたどっていく展示構成となっています。毎度書いている気がしますが、サントリー美術館は中盤に吹き抜けがあり、大型作品を展示構成の盛り上がりと共に見せることができる空間を持っています。しかしながら今回は絵巻がメインで浮世絵のように単調な構成が続きます。これをサントリー美術館はどう見せたのかと言うと…

前半では酒呑童子の定本のストーリーをなぞっていきます。歌舞伎でよく見る頼光+四天王+平井保昌モチーフは「土蜘」が多いですが、「大江山酒呑童子」という演目もあるにはあります

また今回の展示では能「大江山」の映像を流しておりそれを見ることができました。前と後で姿が異なるというのは能の題材になりやすそうですよね。そして登場人物のイメージなんですが、宮から依頼を受ける特殊部隊長の頼光と隊員四天王、孤高のスナイパー平井保昌という感じです。なので退治する対象(土蜘や酒呑童子)が違っていても違うエピソードなんだなと思いながら見ています。サントリー本では、酒呑童子に誘拐された娘たちを助けるため頼光が出立、仙人の手引きを受けながら酒呑童子の元までたどり着き、鬼たちの罠をくぐり抜け酒呑童子を退治します。その中で鬼たちが誘拐した娘の足を切り落として肴として出すという戦慄の描写が…!写本でももちろん再現。そしてこれが現代におけるスペインバルの生ハムっぽくて、今後見るたびに思い出しそう…。

それはさておき、前半で元となるストーリーを頭に入れたあと、後半のライプツィヒ本では酒呑童子になるまでが二次創作的に描かれているんです。これが展覧会のタイトルの由来。さてそのストーリーは。

酒呑童子ビギンズ】

太古の昔、素戔嗚尊稲田姫を救うため八岐の大蛇と激闘を繰り広げた。しかしその怨念は昇華せず、魂は伊吹山に封じられた。長い時が経ち、伊吹山のふもとの貴族の屋敷に美しい姫が生まれた。美しすぎたため父親は誰にも会わせなかった。娘は年ごろになり、夜になると誰かが通っている様子。そしてなんと、娘は父の分からぬ子を宿してしまう。生まれた子は3歳で酒を飲み暴れ始めたため、祖父が寺に相談しそこで育てられることになる。寺での教えを受け更生したように見えたが、童子には不思議な力があり、宮中で鬼の祭りを催す際には一晩で3000もの鬼の面を彫り上げた。祭りは大変なにぎわいとなったが、そこで童子は再び酒を飲んでしまい暴れて手がつけられなくなる。寺から追い出され屋敷に戻るが、そこでも拒絶され悲しみの中大江山に辿り着く。そこへ伊吹山の神がやってきて、実は酒呑童子伊吹山の神として封じられた八岐の大蛇を父に持つと知らされる…ここからサントリー本のストーリーに続いていくわけです

これは通し狂言にできる!序幕は「日本振袖始」と八岐の大蛇のその後。2幕では屋敷での逢瀬から童子の誕生、困惑と宮中の鬼祭りとそこでの立廻り。酒呑童子の葛藤も描きます。3幕で頼光たちの活躍、鬼たちとの酒宴。大詰は酒呑童子の寝所での立廻り。展示されている絵巻の色がスタジオジブリの「かぐや姫の物語」のように淡い感じの部分もあり、夢中で読み進めました。こんな体験は初めて。今回の展示ではこのライプツィヒ本をハイライトに持ってきており、普段の大型展示のガラスケースは片付けられていました。何でも酒呑童子絵巻は当時の嫁入り道具だったんだとか。グロテスクなお話ではありますが、色鮮やかな物語でした