すきなもの雑記

話したいことを話したいだけ

日々粛々と…映画「国宝」

映画「国宝」を見てきました

歌舞伎はとても公言しやすい趣味なので「最近歌舞伎が好きで〜」とオープンにしており、それを知っている方から国宝見たの?となどと聞かれたりしました。それだけの話題作。人気の俳優さんが出ているとは言え、なかなか珍しい現象です。

映画を見た人が私に聞きたいのは劇中の歌舞伎って歌舞伎オタクから見るとどうなの?ってことなんだと思いますが…正直わからないですよね!笑。だって寄りが多いもん。ステージサイドから見ることもないし。わたしが見ているのは主に姿とか全景なので…画角が違いすぎましたね。演目としては鷺娘、二人道成寺曽根崎心中がフューチャーされていました。帰りの新幹線で放心した曽根崎の記憶↓

浴衣でお稽古する場面も楽屋も鳥屋の中もドキュメンタリーなどで見たそのままで違和感がなかったです。歌舞伎の描写よりはどちらかと言うと昭和の描写が興味深く映りました。特徴的な先斗町歌舞練場の外壁とか、国立劇場の椅子とか。よく2人が会話していた橋や再会したホテル、俊ぼんの自宅など。ある役者の一代記として歌舞伎のオタクも好意的に受け止めていたと思います。冒頭の長崎の任侠の描写も良かったですね。宮澤エマさんは今に真ん中で当たり役が来ると思う。来てほしい。ちなみに、ここで若き喜久雄が演じていた関の扉は私は見たことがないです。

f:id:em378794:20250705215021j:image

f:id:em378794:20250705215228j:image

先斗町歌舞練場と南座(2024年12月)。普通に撮ってもどこか昭和っぽい

ところで、映画ラストエンペラーも同じように溥儀の人生を描いた作品なんですが、ラスト20分が私はとても好きで、ゆえに人生で一番好きな映画作品なんです。長い上映時間の果てにがつんとしたオチと深い余韻があるのが良くて、「国宝」は比べるとラストが少し淡白だったかなと言う印象を持ちました。ラストに向かっていくと言えば、最近教皇選挙を見たのもあるかも。教皇選挙もすさまじい余韻でしたから。

歌舞伎オタクの私から見る歌舞伎役者って、アーティストというよりは職人っぽいなと感じています。毎月興行があり、ひと月に何役も演じるので、ニンの役もあればそうでもないものもあり、そもそもニンなんて言っていられない並びの役もあり。自分も技術者の頃はレギュラー案件、突発案件、興味のある案件もあればむしろ好きじゃない案件もあり、それでも振られた案件は粛々とこなす他はないわけで。それが百戦錬磨の経験になっていくという自負がありました。なので、どんな役でも日々粛々とこなしていく役者さん達のちょっとした言葉を紀尾井町家話などで聞けるのが面白いと感じるのです。

(ざっくりメモった覚書だから松竹さんゆるして)

喜久雄は日ノ本座で鴈治郎はんに蹴られた時、並び傾城みたいな感じで座っていましたよね。俊ぼんも熊谷の近習とかやったのかな、勉強会で鷺坂伴内とかやらされたのかしら。大役だけじゃない、若い頃のそういった積み重ねが国宝へつながる道なのだとしたら、そういう場面が映画で描かれるとなお良かったのかなと思います。

現実世界の歌舞伎も同じですね。何年ぶりの再演!とか、親子共演!とかは話題性もあり注目が集まりがちなんですよね。もちろん客の入りが良いので大切なことだと思いますし、わたしだって興味があります。それでもせっかくこの世界(歌舞伎オタクという世界、笑)に入って、それなりに年月も経ってきたのだから、日々粛々と行われている職人たちの当たり前のようでいて尊いものに向き合える歌舞伎オタクでありたいと改めて思ったのでした