すきなもの雑記

話したいことを話したいだけ

わたしが一番欲しいもの…令和六年3月大歌舞伎「寺子屋」

f:id:em378794:20240320191359j:image

あまりにも配役がアツすぎて昼の部は「寺子屋」のみ幕見で見てきました

【今回の配役】

松王丸…菊之助

播磨屋の意思を継ぐためニンではないなどという外野の声をよそに舞台に立つ。決意がハンパない

武部源蔵…愛之助

最近の充実がすごい。すごすぎて尊敬の域。どうしたらこの殺人的スケジュールをこなして素晴らしい舞台を作り上げられるのか

戸浪…新悟

舞台で余裕が出てきて役の解釈に手が伸びている感じがする。それだけ若手時代に真面目に向き合ってきた成果だと思う

千代…梅枝

身体も動くし役も勉強できてるし化粧もうまいし本当に旬。まさに動く浮世絵。華やかさとは違う「粋」を体現している

涎くり…鷹之資

レアすぎる。いずれは松王も源蔵やってほしい!

 

とにかく全員の「圧と気合」がすごかった。

舞台の上で己と向き合う、芸を極めるという覚悟が何より大事だと思うのです。そして代々受け継いできたもの、後世に伝えていくもの。時間という横軸と役者の個性という縦軸があるから今の世も歌舞伎は面白いんだなと思います。そういう意味では愛之助さんと菊之助さんは秀太郎さんと吉右衛門さんの教えを受け継いで行こうという意思がみられますし、お弟子さんたちをどんどん抜擢していこうという姿勢も共通していますね

そして千代ですよ。中盤で花道からぬるりと出てきて、あまりの空気感に鳥肌がたった。着物が黒いからモノクロ映画を見ているみたいでした。もうこの時点で生きた我が子に会える期待はほぼなさそうだったなあ。梅枝さんは時蔵さんになって、これからどうなってしまうんだろう。期待が止まりません。

 

商業スタイルを超えて「カム・フロム・アウェイ」@日生劇場

カム・フロム・アウェイを見てきました

f:id:em378794:20240320190605j:image

一般的なミュージカルとは異なる様相で刺激的な舞台でした

まず、舞台転換は最小限で、ジャケットやハットなど最小限の小道具で演じ分けをします。舞台上にスタッフは上がらないので小道具を用意するのは演者たち。また机と椅子の簡素なセットも自分たちで動かして機内や酒場を表現します。芝居と歌と役が目まぐるしく変わる中でこの地味な手数を覚えるの大変でしょうね。しかも他の役者にジャケットを着せたりするので忘れると迷惑をかけてしまう。

全員が芝居功者で歌もうまい。宝塚からは安蘭けいさん、柚希礼音さん、咲妃みゆさんと実力派が揃いました。特に田代万里生さんがゲイのカップルを演じながら帽子を被るだけでイスラム系のシェフに役替りして役が全く違うので驚きました。

 

初めて入った日生劇場は「豪華」というより「繊細」。
f:id:em378794:20240320190626j:image

手すりの細さなどは近年建てられた劇場では見られないもの。最上階から見える天井の装飾はとても綺麗でした。建物自体が素敵なので、今度は一階のレストラン・カフェにも寄ってみたいですね

 

本阿弥光悦の大宇宙@東京国立博物館

f:id:em378794:20240320173218j:image

平日に行きましたが、ものすごい人でした

本阿弥光悦の大宇宙」

刀剣、書、焼物と一筋縄ではいかない数奇者の功績を振り返ります

刀剣に関わる京の名家に属した光悦ですが、代表作は鉛を使った舟橋蒔絵硯箱です。かさがありすぎて持ち運んだらぐっちゃぐちゃになるのではないかと…笑。とにかく一番初めにトーハク所蔵の国宝をぶつけてきます

目玉はもう一つ、鶴下絵三十六歌仙絵巻で俵屋宗達の鶴の絵に和歌をしたためたもの。多種多様な作品の中でも書はひときわ特徴的です。鶴が大きくなったり小さくなったり、たくさんいたりまばらだったり、そんな画の中で文字が自由に踊っています。音が目に見えたら、和歌を読む声はこんな感じで表現されるのかな

作品だけではなく、法華経の信仰心を強く持ち芸術村を作ったというその後の文化芸術に影響を与えるような生き方を実践していたようです

茶道の師匠は古田織部。樂焼の茶碗も多数展示されていました

そして締めは肖像画と光悦の生き方を記した言葉で、余韻の残る展開となっています

展覧会の題材としてはどちらかというと地味な方だと思うんですが、大盛況でした

 

ところで、今回初めて法隆寺宝物館の中にあるオークラカフェに入ったんですが、エビピラフが美味しくて良かった。コロナ禍の折ずっと閉まっていたので、これから通えるようになって嬉しいですね

すぐそこにある悲しみ…令和六年猿若祭2月大歌舞伎

f:id:em378794:20240304145752j:image

遅くなりましたが、可愛い可愛いお光ちゃんの書き置きを。

〜お染久松物の前提〜

歌舞伎用語案内

歌舞伎のストーリーには底本にしている「設定」が多く、お染久松もその1つですよね。丁稚の久松が奉公先のお染と恋仲になり心中する、という実際の事件を元にしています。観客もお染久松はやがて心中する、という前提を知っていないといけません

この月は大阪松竹座でも「ちょいのせ」というお染久松物がかかっていました。今年4月にも「土手のお六」が上演予定です

 

【野崎村】

お光(鶴松)は久松(七之助)の許婚で帰りを待つ身。本物の大根を千切りしていると、婚礼の準備を行う事になりるんるん。しかしお染(児太郎)が玄関先に現れ、嫌な予感がしたお光はお染を追い払う。が、帰った久松もお染に気づき、二人はともに死のうと約束。お光はその決意を察し、婚礼衣装の下で尼になる準備をしていたのだった。迎えが来てそれぞれに連れ戻されるお染と久松。やがて死ぬであろう二人を見送り、自らの恋も終わり父久作(彌十郎)にすがって泣くのであった…

 

歌舞伎界で鶴松くん以上の適任いる!?!?っていうくらい合ってました。感情のジェットコースターを1人の人物の役の中で表現するのは難しいことだと思います。ラストシーン、うららかな小川のほとりで、立ち尽くしたお光がぱさりと手に持った数珠を落としたんです。その瞬間涙が溢れて止まりませんでした。

死ぬしかないという悲壮感を背負ったお染久松がいる、その影で、当たり前だと思っていた幸せを失った1人の女性の悲しみを描いたというのが、このお話の支持される理由だと思います

 

【籠釣瓶花街酔醒】

七之助さんの八ツ橋の美しいこと、そして籠釣瓶で斬りつける勘九郎さんの身体能力の凄さ

とはいえ現行の場のみだと愛想尽かしの場面が長くてお話があまり好きじゃないかも。共感性羞恥ってやつでしょうか。鶴松くんの初菊の後ろ姿が美しかったです。役としては児太郎さんの演じた九重さんが思いやりがあっていいですね。初演は明治中期ということであまり古い作品でもないのが驚きでした

 

 

宝塚星組「RRR/VIOLETOPIA」

f:id:em378794:20240317193019j:image

あれだけ激戦と言われていた星組RRRをイープラス貸切のおかげで見ることができました。しかも会社の後輩とお互いで当選。イープラスはスマチケだし1名のみで場内も静か。公演の割と直前に抽選が始まるのでとても重宝してます

【RRR全体】

原作映画は視聴済。長いので各所つまんでまとめているなという感じでした。うまくまとまっていると思います。ナートゥは音階を変えていたのであんまりピンと来なかったけど、エネルギッシュな舞台は星組ならではでした

【礼さん】

原作とはビジュアルを変え、なんだかアラジンみたいな心やさしい青年に感じました。星組を見るたびに毎回言うけど、あんなに踊ってて歌唱がぶれないのをファンは当たり前に享受し過ぎだと思う…!笑

【なこちゃん】

原作そのままのビジュアルで非常に良かったです

ドレスも似合ってるし、ナートゥはストーリー変えてビームと対決してほしいくらい。見せ場が欲しかったな

【きわみくん】

そんななこちゃんの隣に立つのが似合う極美氏。変な役とか悪い役とかどんどんやってほしいんですけどね〜

【るりはなちゃん】

冒頭の歌が素晴らしかった。いつも記憶に残る役作りをしてくれるので楽しみにしています

【ほのかちゃん】

過去何作かに比べると見せ場が少なかったと思う…ソロなかったですよね?ストーリーは良かったと思うけど、そう考えるとイギリス側が淡白だったかも

【ぴーちゃん、かのんくん】

1789のシトワイヤンと同じで集団の中の1人っていうのがもったいない

【ちゃりおくん】

という意味で、1789に続き今回もいい立ち位置にいたと思うのがちゃりおくんでした

【ありちゃんとうたち】

ありちゃんが本当に輝いてる。月組から見送った時に最高潮に輝いてるなと思ったけど、ますますきらきらと眩しい。勝手に過去数作はあんまり見どころがない役だと思っていたのですが、ラーマは合ってました。髭で色黒で口数が少ない野心家。銀橋でうたちとデュエットがありましたがそれがすごく良かった。うたちも本当に可愛いので良いカップルですね

 

【VIOLETRIA】

普段の宝塚のショーとは違うタイプでしたね

真っ先に思ったのは「衣装の色はショーの記憶として思っているよりもインプットされる」ということです。星組の前回のショーのジャガービートにも感じたんですが、衣装に色の統一感がないため見終わってもよく思い出せないんですね

なこちゃんのプロローグのドレス、ディテールが凝っていてすごく素敵だったんですが、舞台ではもう少し鮮やかな色でも良かったかなあと思います。中詰のベレー帽の男役は帽子と上着とパンツの色が違っていて舞台上が散漫になっている感じを受けました。

そんな中、終演後に合流した後輩が「白いドレスの大柄な女性はどういうポジションですか?いきなりスポット浴びてましたけど」と言われたので「あれはラーマですよ」と答えました

↓衣装の色合いはとても良かったJAGUAR  BEAT

雪組のショーを褒めがち

 

シリーズわたしのご贔屓さん 中村種之助〜紀尾井町家話 聞き書き〜

種之助さんは私がはじめて見たナウシカ歌舞伎で、初見で「あ、好き」となってその場で名前を覚えて帰った役者さんです。(ナウシカ歌舞伎のディレイビューイングでは配役とあらすじと人物相関図をつけてくれていました)

種之助さんの強みを説明するなら

①立役、女方、三枚目なんでもいける

…同年代に巳之助さんという三枚目の強敵がいますが、巳っくんがどっしり重めの汚れ役を求めている?のに対し、種ちゃんはもう少し軽妙な役どころが合う気がします

②踊りで真ん中に立てる

吉原背景の雰囲気が似合う、小柄で身の軽い江戸っ子っぽい空気感。

 

 

 

あまり報道のインタビュー以外でお話を聞くことがないため、紀尾井町家話に出演した際の話を忘れないようにメモしておこうと思います

吉右衛門さんという大きな柱を失った播磨屋一門ですが、種之助さんがはっきりと「脇の役に面白さを感じる(ニュアンス)」と言っているのを聞いたのは初めてな気がします。これまではいろいろ(真ん中とか派手なお役…)と期待される意見を受け止めてきた印象でした。

しかし、紀尾井町家話で話を聞いているとわかるフシもあって、ここ数年、松竹は種之助さんをどうしたいのだ!?というくらい謎に女方の配役が多い時期がありました。これが…数を追うごとに女方の化粧が急激に上手くなって、本人も手応えを感じているのでは、と思っていました。

特に国立劇場2023年3月の一條大蔵譚と明治座翌月の絵本合法衝はどちらも格好良い&可愛い女方でファンとしては見ていて大満足でした。

立役での種之助さんは歌舞伎座で8月、團十郎さん座長のめ組の喧嘩に出るんですが、このおもちゃの文次って役もまた良くてねえ…

め組の喧嘩自体、いい役が沢山あるんですよね。

 

歌舞伎の中には出演時間は短いけど場の空気を変える役がたくさん出てきます

例えば今回の浅草で勤めた白須賀六郎(十種香)もそうですし、雅楽之助(吃又)や弁天娘女男白浪の番頭もカッコいい。ちなみにこんな立ち位置の三枚目の役も沢山ありますよね。かっこいい役より入れごとをしたり義太夫に乗せて踊ったりするので見ていてハードルが高く感じます

役の方向性に関わらず、スポットで魅せるためには踊りも芝居も全てを凝縮させる必要があります

しかしそれが究極の仕事人って感じがして、そこに種之助さんが面白さを感じているのでしょう。今後も楽しみです。

ちなみにわたしが脇役で種之助さんに演じてほしいのは

・弁天小僧の番頭

・伊勢音頭の料理人喜助 ですね!

女方なら

三人吉三のおとせ

・義賢最期の小万 かな!

どちらもペアで歌昇さんと組んだら良いかも

 

 

 

 

本質に立ち返って…ヤマトタケル@新橋演舞場

f:id:em378794:20240304142110j:image

本当は團子ver隼人verで1枚ずつ持っていたのですが、体調が悪い日に重なりはーさんは断念しました。

今後見る機会が生まれその時にまた印象が変わることを願いつつ、正直なところ、すべてが華美で過剰で「重たい、暑い」というのが全体を見た感想です。

今まで見てきた「新・三国志」「新・水滸伝」と違うのかな?と感じる理由は、猿翁版の演出にほぼ手を加えていないからだと思います

「新・三国志」は感情の流れが詩的な言葉に彩られ、猿之助さんの演出能力が遺憾なく発揮されていました。「新・水滸伝」はセットが簡素でそれが現代的でもあり、アドリブによる役者の力を感じる事ができました。

ヤマトタケル」を古典にするにはいささか早すぎ、スーパー歌舞伎とするならブラッシュアップが必須です。演出や舞台技術が古い、安っぽいというのは意外と一目でわかります。斬新な技術と演目こそがスーパー歌舞伎の本質なのではないでしょうか

ただ、演劇的工夫(大碓と小碓の早替りや熊襲の立ち回りなど)は今後も大事にしてほしいです。

團子チャンはとても良かったです。ひとまずはじいじのやっていた役を自分で板に乗せましたね。ここで終わる彼ではないと思うので、澤瀉屋の演目をどうしていくのか今後も見守りたいです。澤瀉屋がなお栄えたのは、やはり猿之助さんの才覚あってこそだと思うので。ただなぞるだけではすぐにお客さんは飽きてしまいます

今回の配役では米吉くんが1人だけ芝居が段違い(というか、1人だけ歌舞伎ではなく演劇)だなと感じました。弟橘姫が海に身を捧げる所の昏い目つきは演劇的で良かったです。

猿弥さんが山神の最後に下手のセットに登りだして、あれはもしや…と思っていたらやはり知盛の最後の落ち方をしていて実はそこに一番感動してしまいました