すきなもの雑記

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夏の若手祭り2部「豊志賀の死」@令和三年8月大歌舞伎

引き続き、8月場所の2部感想

2部は

真景累ヶ淵 豊志賀の死

仇ゆめ の2演目です

豊志賀の死に関しては以前記事で触れましたが…

なんと、鶴松くんがほぼ主役と言っても良い役どころです

 

 

豊志賀の死  あらすじ

唄の師匠、豊志賀(七之助)は相貌の崩れる病気(長い話の中では因果によるものなのだが、ここでは割愛されている)で年若い弟子で恋仲の新吉(鶴松)に看病されているが、弟子のお久(児太郎)に新吉を取られはしまいかと疑心暗鬼。

新吉はその嫉妬が煩わしく、豊志賀が寝ついた夕方にお久と出かける

起きた豊志賀は嫉妬に狂い死ぬ

そうとも知らず身の上話をし合う二人の元に豊志賀の亡霊が現れ、恐怖を感じた新吉は伯父の勘蔵の元へ

勘蔵は新吉に恩義のある豊志賀を捨ててはいけないと諭し、実は豊志賀が奥に控えていると言う

二人が帰るための駕籠を勘蔵が手配していると、長屋の噺家さん蝶(勘九郎)が豊志賀の死を知らせにやってきて…

 

落語がベースでありながら歌舞伎独特の仕掛けが生かされている作品です

お久と鮨屋の2階にいるとおもむろに消える行灯の火、物陰から豊志賀が現れ消えていく…

勘蔵宅の奥に引っ込んだ豊志賀がラストのオチ、駕籠の中にいつの間にか潜んでいる…等

 

鶴松くんは中村屋の兄貴分である七之助さんに思いっきりだる絡みされ怖い目に遭わされるという、確かに「合ってるな…」と思わせる配役でした

そこまで豊志賀を疎んでいるという役作りではなく本当に困り果てた感じで、お久の身の上話にも心から賛同している人の良さがにじみ出ていました

日暮れの鮨屋の2階でしっぽり…という当時のデートのリアルさ(?)が感じ取れて、あそこの美術やセットがすごく好きでした

 

鶴松さん、コロナ禍とはいえ歌舞伎座の本興行で新吉役をお勤めになったこと、大変なプレッシャーとご苦労があったと思います

客席もなんとなくその事を感じ取って応援しているような空気でした

本当にお疲れさまでした!

 

つづいて。

仇ゆめのあらすじを簡単にまとめると

京都壬生野の狸が、島原の深雪太夫に恋をしたため人間(深雪太夫の踊りの師匠)に化けて会いに来る。それに茶屋の主人が気づき、狸を懲らしめたところ死に際に深雪太夫に会いに来る…という感じです

 

あんまり真面目に受け取ると狸が懲らしめられて以降の流れが辛くなるので、

さるかに合戦やぶんぷく茶がまのような日本昔ばなしのような感じだと思えばいいのでしょうか…

 

狸→深雪太夫→師匠という好意の流れがあり、それぞれが思いを感じていても理由あって受け入れることができないのが切ないところです

舞の師匠(虎之介)が意外と切ない

 

中村屋ハッピー演目御三家(鰯売恋曳網、山名屋浦里、心中月夜星野屋)と系統の近い作品なんですが、最後が泣ける😭

そしてこの泣きの演出こそが中村屋の真骨頂だとも思う

 

途中まで狸のぽんぽこした(本当にぽんぽこした音!)効果音や懲らしめられる動きの滑稽さは昔話のデフォルメされた世界観なんですが、狸が死に際に深雪太夫に会いに来ると一変、花吹雪がちらほら落ち始めます

習った踊りを一緒に踊って元気づけようとする深雪太夫、しかし狸に余力はなく倒れて丸まり息を引き取ります

この、だんだん動かなくなる勘九郎さんの演技が人間なのにリアルで。

そして動かなくなったたぬきの手を取ってぽんぽこ(両手を合わせる動作)させる深雪太夫、頭をぽんぽんと撫で、自分のかんざしで死んだ狸の毛並みを整えてあげます

この七之助さんの動作もいじらしくて泣ける

小品ならではの中村屋の芝居のディテールの細かさを感じました