すきなもの雑記

話したいことを話したいだけ

令和三年国立劇場6月 文七元結

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6,7月の国立劇場は歌舞伎鑑賞教室です

1部 歌舞伎のみかた

この後演じる「文七元結」がどんな時代背景なのかをふまえて舞台機構の解説などをしてくださいます

今回の担当は中村種之助さん

種ちゃんの解説(?)といえばナウシカ夜の部の道化の口上が思い浮かびます

わたしは種ちゃんがナウシカの夜の部の冒頭、

1人幕前で話して歌って踊った10分間を見て「歌舞伎役者って芸達者だな〜」となり帰り道で歌舞伎の本を買って帰った人なので😋

種ちゃんには思い入れがあります

今回は素で舞台に上がっていますが本人は苦手だって言ってましたね

 

さて、文七元結は落語が原作。

全体的に落語っぽいテンポの良さとはっきりとした起承転結があります

 

〜人情噺文七元結のあらすじ〜

長兵衛とお兼は喧嘩の絶えない夫婦。

長兵衛には50両の借金があり、立て替えるために娘のお久は自ら吉原に行って身を売る

吉原・角海老の女将はお久の心意気に心を打たれ長兵衛に50両を貸す

 

長兵衛が50両を抱えて大川端を歩いていると手代の文七が飛び込もうとしていた

話を聞くと店の50両を奪われたので死ぬしかないと。長兵衛は命は金に変えられねえ、と自分の50両を文七に与える

しかしお兼はその話を信じず文七をなじる

そんな中に文七の主と文七が50両を返しにやって来る

文七とお久の縁談も決まり、めでたしめでたしで幕

 

 

 

松緑さんと扇雀さんの組み合わせはあまり見たことがありませんでした

紀尾井町家話でも言っていたけど、扇雀さんは中村屋との共演が多いイメージですね

で、扇雀さん演じるおとくの後半のコミカルな動きが可笑しい🤣演じる人によってかなり変わってきそう

松緑さんがひっぱられていってるのがわかります

そういう意味では、かかあ天下の家なんだろうな

新悟さんは細くて身長も高いけど、丸みのある可愛い声が好き

 

シネマ歌舞伎「鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)」

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かっわいい色〜!!!!

大好き!

展覧会などもですけど、チラシのデザイナーさんて全体的に魅せるの上手いですよね

モチーフを配し、色調を統一させて、素材を切り取って。

 

ちょっと話逸れますけど…

韓国ドラマの日本輸入版への改悪が一部では言われています(シリアスドラマもテキトーにLOVEなサブタイつけてピンクとハートでまとめてしまう件)が、あれ最初にフォーマット組んじゃうとなかなか抜け出すの難しいと思うんですよね…

デザイナーは素材を素敵に見せる技術は持っている

しかし発注者ではないので「いつものとおりに」と言われたらそう作るしかない…

要は発注する側(主にプロデューサー)の意識次第なんですけど、もうこれは個人のセンスに頼るしかないので…

 

 

展覧会やこういったチラシの場合はプロデュースする方たちに

「より素敵なものを作ろう!」

「内容に見合ったものを作ろう!」という意識があるのではないでしょうか。想像ですが。

もしくはデザイナーにある程度のコンセンサスがあるとか。

シネマ歌舞伎の場合はコンテンツとして長く残るし、未来の歌舞伎オタクがこのデザインにときめくと思うとすごく嬉しいです

 

 

演目としての「鰯売戀曳網」

〜あらすじ〜

鰯売の猿源氏は五条橋東院の傾城・蛍火に恋煩い。鰯を売る声にも覇気がない

心配した父は、猿源氏を上洛予定のお殿様にして東院に乗り込むことを思い立つ

 

東院では傾城たちが貝合わせの最中

不審な庭男が様子をうかがっている

殿様は合戦の話を聞かせてくれと傾城たちにせがまれるがもちろんできるはずもなく、魚の名前をもじったニセの話を面白おかしく聞かせる

優しくて面白い殿に心惹かれた蛍火だが、うたた寝する殿から鰯売の呼び声の寝言が。

実は蛍火はお姫様。かつて鰯売の呼び声に聞き惚れて城を抜け出したところ人買いにさらわれてしまったのだ。

そこに庭男、実は蛍火の城の使いが登場。

持参金で蛍火は自由の身に。

そして猿源氏とともに夫婦の鰯売として東院を後にするのであった

めでたし。

 

 

 

 

私が歌舞伎に興味を持ったときにちょうど放送していたのが「鰯売戀曳網」でした

よちよちの歌舞伎オタクの赤子が初めて見た広い世界です

そして赤子には鰯売の世界があまりにも優しくて…

ご都合主義のハッピーエンドがわかりやすくて幸せで「歌舞伎って話わかりやすくて面白い〜」と思っていたのでした

(直後に三人吉三の因果と闇の世界を見たので、今思うと飛び込み台から沼に突っ込んだような高低差がありますね。勢いつくわけだわ)

演目としては新歌舞伎に分類されると思います

余談ですが

「鰯売戀曳網」

「山名屋浦里」

「心中月夜星野屋」の3作を勝手にハッピー歌舞伎御三家命名しました(今)

 

共通点としては

・1時間程度で完結する短めの演目

・話に起承転結がある

・セットが派手め(遊郭とかお屋敷とか橋とか)

あと、基本的には中村屋中心の座組だと思います

 

「山名屋浦里」はたしかタモリさんがブラタモリで聞いた話を鶴瓶さんに話したことから落語化→勘九郎さんが気に入って歌舞伎化

という経緯だったはず

 

「星野屋」は七之助さんが粗筋を気に入って…とかだった気がする

昨年12月の感想で触れています

 

ハッピー御三家、何がいいかって

ご新規さんにオススメしやすい演目なんですよね

短くてわかりやすくて派手

私が鰯売で身をもって感じました

 

 

シネマ歌舞伎「鰯売戀曳網」では

シネマ歌舞伎版では玉三郎さんのインタビューが挿入され、彼が寵愛を受けた戯曲の作者である三島由紀夫勘三郎さんとの思い出を振り返っています(が、玉様は台本めっちゃ読んでるっぽい😂)

 

配役

猿源氏:勘三郎

蛍火:玉三郎

猿源氏の父:彌十郎

猿源氏の馴染みの馬喰:幸四郎

庭男実は次郎太:片岡亀蔵

 

私的見どころが何箇所かあります

1.馬に乗った猿源氏が「それでは殿様」に応答して扇をばっと開くところ

2.蛍火登場の襖

3.膝枕した殿様の寝言に「他の人の名前を呼ぶなんて妬けるじゃないか」と言いながらはたく蛍火の可愛い嫉妬

4.ラストの花道一連

ラスト、定式幕が8割閉まり花道上で二人のエピローグがあります

観世音さまに御礼→お互いの着物の乱れを直す

→猿源氏が美しい蛍火に惚れ直す→踊りながら花道の東西にお辞儀→手が触れてちょっと照れる2人→花道を駆け抜けて退場

初々しい心情が描かれていて、心が洗われる気持ちになります

 

次郎太がコメディっぽい役で全体の温度を上げます。シネマ歌舞伎では亀蔵さんでした。盤石。

幸四郎さんが馬を可愛がって馬役を気遣ってるのがわかります。

馬大変そう、出番長いし猿源氏乗せるし

蛍火は家臣次郎太には主君らしい物言い

恋する猿源氏にはしおらしい妻、という2面性が面白いです

猿源氏は蛍火を前にして挙動不審になったり、

海産物合戦を蛸の真似をしながら踊ったり、

合戦の演奏が始まりそうになったら義太夫に始めちゃダメって合図送ったり

憎めない役です

 

 

ちなみに

「鰯売戀曳網」は中村屋ご兄弟で2度再演されています

両方見ましたがお二人の演技が勘三郎さんと玉三郎さんに生き写し。

特に猿源氏の勘九郎さんは声まで似てる

そしてとにかく七之助さんの蛍火が美しいです

ラストで猿源氏が蛍火にしみじみと「まあ美しい…」って言うんですけどあれ、勘九郎さん素だよね?

本当にガラスに入った日本人形が動いているみたいです

 

 

 

 

 

 

ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」

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小池氏演出のロミオ&ジュリエット(赤坂ACTシアター)です

 

私が見た回の出演者は

ロミオ:黒羽麻璃央さん

ジュリエット:伊原六花さん

ティボルト:立石俊樹さん

ベンヴォーリオ:前田公輝さん

マーキューシオ:新里宏太さん

死:堀内將平さん

でした

 

伊原さんは想像以上に歌唱が良くて驚きました

声が生田絵梨花ちゃんみたいな感じ

黒羽さんもロミオっぽくて爽やか

ラストの霊廟では十字架のセットが組まれ、死が結構な高さまで登ります

幅の狭いステージなのでその分積まれた脇のセットの高さに圧倒

鉄骨を3階建てくらいに組み、LEDを取り付けて舞踏会では光らせたり、背面の布をスクリーン代わりに使ったりしていました

屋敷内のシーンは壁紙の模様を映し出したりしていて効果的でした

 

ACT版(と言うべきか)では最初のバルコニーの場がなくジュリエット部屋。ここでパリスの申し出を伝えに来た母のソロがあるんですが、ここでジュリエットに向かって

「お前は別の男との間の子」

と衝撃の告白をします

 

…エッ???

 

しかもお前も望まぬ結婚をして私の気持ちを思い知れ的な歌詞でさらに衝撃。

しかもキャピュ父がこの事実にうすうす気付きながらも2幕のソロを歌うので、父…哀れだな…と思う

 

なんか本当、星組でやってたから何度も見れたけどロミオとジュリエットのストーリー…きらいだわ😅

確認のためにウエスト・サイド・ストーリー(映画)も見直してみたけど…以下同文

エストサイドのマリアとかさー

恋人を亡くしたばっかりのアニタをジェッツのたまり場に行かせるんだよ

自分の愛のためだったら人のことはどうでもいいのかよ、と思う

 

でも私、シェイクスピアは好きになれる気がするの。よく知らないだけで。(急に)

シェイクスピアきちんと勉強したいな

 

そして

ACT版は噂に聞きしスマホが登場します

スマホ、けっこう凶悪ですね

スマホが出てくるだけで気持ちが現実に戻っちゃって、没入感が失われるんです

ベンヴォーリオがロミオを探すときにスマホ

結婚式のシーンをスマホで撮影

仮死状態の連絡が手紙ではなくメール

で、マントヴァスマホを奪われメールが読めない等…

 

元々持っている原作のクラシカルな雰囲気を割とぶち壊していると思いますね…

 

パンフレットを読むと舞台は「近未来」のヴェローナらしいんですが、衣装は現代のストリートっぽい

「綺麗は汚い」ではポップなファストフードのアルバイトダンサーが現れる

一方で、大麻とかスピード?とか薬物の名前は具体的に出てくるのにジュリエットが飲むのはベラドンナの毒薬

大公は存在し、喪中の概念がある…

どんな世界観よ

 

私がこのミュージカルを観劇した数日前には星組のロミジュリ千秋楽配信があり、「僕は怖い」の真琴さんの絶唱を聞いたあとだったのですが…

日本って宝塚もそうだけど、劇団四季もあるしミュージカルに特化した団体って存在するじゃないですか

どうして芸能事務所主催のミュージカルがあるんだろうと素人は純粋に疑問だったんですが、ホリプロってミュージカルのヒット作をたくさん出してるんですね

ロングランは俳優さんも事務所も安定するだろうし経営にはいいのだろうか

韓国のミュージカルを見てると、とにかく主演クラスはプロ歌唱。アイドル枠があってもボーカルで歌にお墨付きのあるメンバーが演じることが多い

歌を専門にやってない俳優さんの主演って少し物足りなく感じました

これはミュージカル要素が強いロミジュリだからであって、きっと芝居要素の強いものを見たら違う感想を抱くんだろうな、うん。

 

コクーン歌舞伎「夏祭浪花鑑」

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かつて「三人吉三」も上演したコクーン歌舞伎

(私は映像で見ただけだけど)

チケットも争奪戦でしたが、松竹歌舞伎会でなんとかゲットできました

以下演出についてネタバレがありますので未見の方はお気をつけください

 

 

 

 

 

〜夏祭浪花鑑あらすじ〜

玉島磯之丞は放蕩息子。

立ち直らせるために磯之丞(虎之介)の母から命を受けたお梶(七之助)は物乞いの徳兵衛(松也)に協力を仰ぎ、それが元でお梶は徳兵衛の恩人となる。

お梶の夫、団七九郎兵衛(勘九郎)は喧嘩が元で牢に入れられていたが玉島様のはからいで出所。

玉島家への終生の恩義を誓う。

団七と徳兵衛は街で出会って喧嘩になるが、お梶がとりなし二人は義兄弟となる

(というのが基本設定)

 

磯之丞は立ち直って奉公していたが、奉公先で人を殺し、団七の知り合い三婦(さぶ・亀蔵)の家に恋人の琴浦(鶴松)と共に匿われている。

そこへ徳兵衛の妻お辰(松也)がやって来たため、三婦の妻おつぎが「磯之丞を地元の備中へ連れ帰ってほしい」と頼む。

しかし三婦は「お辰には色(気)があるから間違いが起こる」と反対する。

お辰は引くに引けず、火鉢の鉄弓で頬を焼いて「これでも色があるか」と応酬。その心意気をかって磯之丞を託す。

そこにお梶の父義平次(笹野)が団七から琴浦を連れ出すよう言付かったと現れ琴浦を連れ去ってしまうが、すれ違いで現れた団七は身に覚えがないという

琴浦に横恋慕する佐賀右衛門が義平次に命じたと悟り連れ戻しに行く団七。

団七は義平次を斬ってしまう。

祭りの混乱に乗じて団七は逃亡するが、徳兵衛はその場に残された団七の雪駄を拾う。

 

徳兵衛は義平次を殺したのは団七だと勘付き、何気なく逃亡を促すが団七は聞かない。

徳兵衛はお梶に迫り、団七からの離縁を取り付ける。

舅殺しは重罪。離縁して少しでも罪を軽くしようとしたのだ。

しかし追手はそこまで迫っていた…

 

 

 

実は……

 

途中の演出で、現実に戻る出来事があって。

義平次ともみ合いになるあたりで照明が蝋燭のみになるんです

後見さんが持って役者と一緒に移動してくれるんですが、それでも後方席からだと暗すぎてどこで決まってるのかわかりずらくて、拍手したいけどもどかしい感じでいました

その後、団七が祭の集団と一緒に逃げていくんですが、背景が外され舞台後方正面の搬入口が開くんです

似た演出がシネマ歌舞伎の「め組の喧嘩」に出てきました

あの時はラストシーン。正面にはスカイツリーが見え、芝居の時代と現代をメタ的に繋いだ演出だなと感じました

 

コクーンの場合は搬入口なので、広がるのはアスファルト。しかも間の悪いことに一般の人が道路を横断していてこっちを見ていたんですね

その瞬間に「わたし何してるんだろう?」って思ってしまって。

殺しの場がちょっともやもやした感じだったのもあって、そこで完全に集中が切れてしまいました。

こんなご時世にわざわざ人の多い渋谷にでかけていって、席に余裕があるとはいえ密な空間で、それなりのチケット代を払って…という感じに。

切れちゃうとなかなか戻れない。

演出って難しいんだな〜と思いました。

 

 

でもそれ以外は素晴らしくて!

「三人一座で出かけようか」的な話の場合

ご兄弟と松也さんの組み合わせが一番しっくりくる気がします。

勘九郎さんと松也さんの肉付きの良さが最高。

徳兵衛がお梶を押し倒し(服着てなかったよね?)、すんでのところで団七が現れ静止した場面、あの静けさがすごく怖かったです

浴衣を縫うからって言って狭い畳で他所の男が服を脱ぐんですよ

夏の終わりの影の濃い夕暮れで…

何もないわけなくない!?!?

脳内に「団地妻」というワードが浮かびました(なんで)

もっときちんと集中して見たかった😭😭

あの冷たい目が勘九郎さんの真骨頂であり魅力である…(徳兵衛の思惑は察していたはずだけど)

横になる二人とまっすぐに立つ団七と格子と柱と縦と横のラインが非常に美しかったです

 

今回、全体をぴりりと締めていたのは亀蔵さんだと思いました

声の強弱が効いていてカタギじゃない感じが見えてかっこよかったです

松也さんはお辰で出てきた瞬間から声が枯れていましたが裏返らずさすがでした

私のご贔屓、中村鶴松くんは傾城琴浦と役人左膳の2役。

相手役の虎之介くんは年下だし、やりやすそうな環境でリラックスして演じているように見えました

上演10分前くらいから舞台上でちょこちょこ芝居の準備=祭の準備が始まっていて、直前に宮司さんが来て舞台の成功祈願=祭のご祈祷があるんですが、そこでわらわら集まってきてお話してる感じとか、三婦の家で磯之丞をひとりじめしたい♡な琴浦とか、佐賀右衛門を袖にする琴浦とか、色んな表情が見れてよかったです

 

割と単純なストーリーのつもりでいましたが、書き起こすと長いですね。

今回の上演時間は幕間なしの135分。

通してこの時間なので、相当端折っていると予想されます。

そのため、あまり世界観に浸かれないまま幕引きになってしまいました。

たぶん大詰ありの3部もの(東海道四谷怪談とか桜姫東文章とか)は幕間ありで4時間くらいがちょうどいいんだと思う。

1745年初演の古い作品なので、当時の考え方が反映されていると思います。

根底にあるのは「舅殺し」への因果。

因果と憎しみの連鎖(と物探し)が出てくると古典を見ている!!っていう感じがして盛り上がります。

殺しへのきっかけになるのが団七の額への傷。

男は顔の傷を気にするのに、女は顔を焼いて心意気を見せるのがヨシとされているのが不思議なところ。

 

 

 

 

 

木ノ下歌舞伎「義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー」

ずっと気になっていた木ノ下歌舞伎の「義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー」が配信されているということで視聴しました

本編に加え、木ノ下裕一氏の「よくわかる解説」が引き続き視聴できる形。

以前、杉原邦生さんと対談されていた時に古典詳しい人だなあと思っていたけど、解説がわかりやすくて面白い!

今回の解説の中で義経千本桜は現代で言う歴史ifモノ」と表現してらっしゃいました

それを踏まえてキノカブ千本桜は3部構成になっていると。

〜実際の平家没落を口語で

義経千本桜前段までを振り返り

〜渡海屋・大物浦

大部分が口語になったことで物語の輪郭が見えて、すごくリアリティを感じました

特に最後知盛が言う「俺たちは生まれる前から殺し殺され殺し殺され殺し殺され…」という台詞。

本文の現代訳になっている、且つ「殺し殺され」という強い言葉が並ぶことで一気に源平の戦いが現実に近くなり。

江戸時代の人は歌舞伎を通して合戦を近くに感じていたのかな。

その感覚が少し理解できた気がしました

 

典侍局が幼い安徳帝の入水をすすめるときも、

この世にはもう苦しみしかないから波の下の都に行こう、と言うんですよ

そんな子供騙し。

でもそれは真実でもあって、このまま残っていたら捕らえられてどんな目に遭うかわからない…

大人達も波の下に安息の地があると信じたかっただろう

 

知盛も元をたどると悪逆非道を尽くした清盛の子。そして討ち取る義経もこのあと頼朝に追われる身になる。

歌舞伎と因果って切っても切れない関係で、それを描いた当時の作家たち、それに魅せられた当時の人々のことを感じていたい。

江戸時代に思いを馳せるってそういうことなのかなぁと思ったりします。

 

しかしそこはもちろん現代の作品なので

現代劇のような演出もあり。

ステージは菱形で、少し前方に向かって斜めに下がっていました

何箇所かステージパネルがガラス張りになっていて、それがパカッと外れて下に物が落とせるような仕様。

作中でキーになっているのは衣服。

巧みに死のモチーフとして扱われていて、劇中で役が死亡すると衣を脱いで退場します

置き捨てられた衣は無機物で、だけど人の形をしていて、まるで死体のよう。

ボルタンスキーのインスタレーションを連想しました

劇中死人が増えすぎたためステージには衣服が積み重なり、それを邪魔とでも言うように、演者自らステージの穴の中に落としていきます

 

あくまでシンプルで、

押し付けがましい演出や狙いがなく、

そのぶん役者の演技で想像を巡らせる。

歌舞伎役者の歌舞伎に対して、本質を間違えたら寝首をかくぞ、という気概を見せられたようで、

とても好きな舞台でした。

次回が楽しみです。

 

 

 

令和三年5月大歌舞伎

なんとか見れました

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この先自分が読み返すときのために書いておくと

3度目の緊急事態宣言となり期間は5/11まで

わたしの通し観劇日は5/13

期間の延長が決まりもうダメか…と思っていたところだったが劇場は再開可能ということで無事観劇できることに。

覚えてるか未来の自分!(笑)

 

1部

三人吉三(大川端の場)

三人吉三で黙阿弥が言いたかったことって、因果によって身を滅ぼすという大川端以降の転落にあると思うんです

一番初めに通しの三人吉三を見たので、大川端の場だけを見た人はどんな感情になるのかわからない

観客的には、バッドエンドに近い通しより「三人一座で出かけようぜ!」〜幕、みたいな華やかな1場面の方がテンション的にいいんでしょうか

これでいいのか教えて黙阿弥。

 

大川端の場だけだと

おとせちゃん何なの?ってなってしまう。

せっかくのまるるおとせちゃんなのに出番5分😭

 

もしこれが通しだったなら…その後を想像してみてよ

犬柄着て巳っくん和尚に斬られるおとせちゃん…ヤバ、見たい(おい)

その配役なら十三が鶴松くんだとバランスがいい気がする…

 

右近くんのお嬢はすごく合ってましたね!

隼人さんお坊も駕籠からちゃんと出れてた

巳っくん和尚の化粧が浮世絵の役者そのもの!

いい顔してるよね〜

大変だと思うけど通しで見てみたい

巳っくんの、義兄弟には人情家でそれ以外にはどこまでも非情な和尚が見たい

 

土蜘

松緑さんの土蜘、かっっっこよすぎて目ん玉飛び出た

身体鍛えてらっしゃるじゃないですか、それがすごくプラスになって見えた

3階5000円席から双眼鏡で見てるといきなり目が合ってぞっとしたよね

歌舞伎座で初めての体験をした😂

 

松緑さんの後見さんは本当にいつも素晴らしくて、今回はノールックで投げた数珠をはっしと受け取り、踊りの邪魔にならないよう蜘蛛の糸を即座に回収していた。仕事人尊敬。

 

猿之助さんは頼光なので大人しかったんだけど、病んでるのに鉢巻してなかった

四天王坂田金時が鷹之資さんで元気で良かった!

いつか土蜘…やってほしいねえ…

驚いたのは太刀持の寺嶋真秀くん。

全然子役じゃない。

衣装も長袴だったけど普通に移動してたし、僧の影に気がついて頼光に伝えるときのスピード感も良かった。

 

3部

八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう)

全11段の中の4段「湖水御座船」の場

毒酒を飲んだ佐藤正清が息も切れ切れに見得を切る

種ちゃんの轟軍次がめちゃいいです!

追手としてやって来るが正清が平気そうなので「?」となりながら引き返す、その感情の変化を大きく表現するのが上手い。

1月の珍斎以来のヒット

こういうお役が一等似合う〜

 

雛衣の雀右衛門さんが本当に琴を弾いていた

琴とか三味線を弾ける役者さんってめちゃくちゃかっこいいですよね!

 

そして舞台上の大きな船が後半で90度回転!

なんかタイタニックみたいになる!

元々は文楽作品で4段目が歌舞伎に入ってきたみたいだけど、この派手さは確かに歌舞伎向きだなと思いました

 

春興鏡獅子

待ってました!

1日の最後に菊之助さんの鏡獅子!

4月の芝翫さんとの絵本太功記、今だから言うけど空席が多くて😭

みんな菊之助さんに興味がないの🥺?と寂しく思っていたんですが

全然そんなことはなかった

上演記録見ると、菊之助さんは現役の中では最も上演回数多いんですね

前半はたおやかなな女役、後半は勇壮な獅子の精で毛振りって…まあ菊之助さんのためのようなお役か、ってなる

両方できる人って難しいですよね

 

面白いのは、弥生は将軍の前に出されて踊る設定なので観客は将軍の気分で弥生を見ている

ほうほう急に表に出されて恥じらいおって…みたいなお殿様気分で見ることができるので楽しい

 

今回見ていて初めて気づいたんだけど、獅子の頭は蝶を追ってるのね!

菊之助さんは全く見てないのに獅子の先には蝶がいるのがすごいと思いました

胡蝶ズもかわいかった〜!

丑之助くん横顔がお雛様だし、亀三郎くんはお父様似。

今月は子役の頑張りがすごく印象に残りました

最後も拍手拍手で良かった〜

やっぱり菊之助さん好きだなって思いました

沙門空海 唐の国にて鬼と宴す

コロナ禍において歌舞伎にはまり、そこから何故か好奇心の延長で夢枕獏作品を読んでいく過程はこちら

歌舞伎→平安バディモノ→陰陽師→(日本版映画とか中国版配信とかいろいろあって)→夢枕獏作品→沙門空海→(映画版とか歌舞伎版とかいろいろあって)→現在

約1年で連想ゲームがここまで来ました

前回記事では沙門空海もメディアミックス展開がいろいろあるよ!ってところで終わったので、その後の話です

 

◆「沙門空海 唐の国にて鬼と宴す」ベースとなるあらすじ◆

命からがら唐の国にやってきた空海橘逸勢

空海には真言密教を習得し日本に持ち帰るという野望がある

時の長安は国際都市。様々な人種が入り乱れており、娼館「胡玉楼」もその1つ。

そこで出会った白楽天玄宗皇帝と楊貴妃について思索を巡らす詩人。

化猫に取り憑かれた役人、綿畑での異変、皇帝への不吉な予言…

空海と逸勢は長安で様々な人と出会いながら、かつての遣唐使阿倍仲麻呂の書状を手に入れる

玄宗皇帝と楊貴妃の愛憎の顛末が、現在の長安の怪異の元凶だと突き止めるが…

 

 

 

空海がとにかく魅力的

泰然自若として聡明で、ユーモアもあって、体格もよく、お経を詠んだらイケボで(これは想像)…

逸勢に「お前は女を知っているのか?」茶化されても「あれは良いものだ」と返せる余裕よ

だからこそ作中の突飛かなと思える展開も納得してついていけるし描かれない部分での想像の幅が広がる

長安の描写も克明で、様々なルーツを持った人のやり取りや街の熱気が盛りだくさんに描かれている

逆にメディアミックス化する際にこれ再現不可能だろ〜と思ってしまうほど

陰陽師と同じく、呪詛や蠱毒の描写は細かくかつわかりやすく描かれていてリアルな触感。釜茹での過程とかね、

そして、セリフは陰陽師に比べて格段に長い

問答での密教の教えや宇宙の捉え方は読んでいて面白かった

 

物語の中で空海はストーリーを回す役であって、空海が何かすることで話が動くわけではない

特に中盤以降、玄宗皇帝楊貴妃の時代と物語が行ったり来たりし始めるので空海もある意味読者。

夢枕獏さんは空海と一緒に物語を歩いていたんじゃないかなーとすら思った

 

この空海の立ち位置が、小説とメディアミックスの差異、言語だけで表現することの無限の可能性を示している気がする

この小説において映像は原作を超えられなかったのだ

観客や視聴者は原作小説を読んでから映像を見るとは限らない

前回の記事であまり両作品とも口コミが良くないと書いたが、メディアミックス化された作品のみで受け取ると難しい評価になってしまうのだろう

これも原作者 夢枕獏が暗に伝えたかったことだと思うのは斜めに読み過ぎだろうか?

 

 

歌舞伎版「幻想神空海」感想

空海幸四郎、逸勢松也、楊貴妃雀右衛門

丹翁歌六、黄鶴彌十郎

非常にコンパクトに全体をまとめ、春琴(児太郎)化猫〜仲麻呂の書状〜墓あばき〜貴妃のくだりは義太夫節でタッチをつけて〜宴という流れ

 

物語の分量で言うとナウシカくらいの時間(昼夜公演)がほしいし、同じ菊之助主演のマハーバーラタ戦記くらいの演出がほしい

予算が足りないような地味なシーンが多い印象を受けた

しかも、この収録回だけだったのかもしれないけど、なんだかすごく空回りしていて、客席降りのあたりはセリフがとんでる感じがする(演者が半笑いだから)し

小道具の磁器製の椅子が、立ち上がった瞬間にカランカラーン…って軽そうに倒れて松也さんが慌てて直しに行くし

観劇してた獏さんどう思ったんだろう

演出面では、登場シーンが地味すぎて(大体が歩いてやってくる)歌舞伎って登場が華って感じがするのに、いい所皆殺しすぎる

プロジェクションマッピングとか宙乗りとか

演出も音楽もいかようにも出来ただろうに。

松也さんはともかく、幸四郎さんの役作りがちょっと軽い感じがする。原作からするともうちょっと古典作品のような居住まいでいてほしかった

 

米吉くんの玉蓮が美しかったのは確か!(琴実際に弾いてた?)

 

 

映画版「空海KU-KAI 美しき王妃の謎」感想

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さて

日本公開版とインターナショナル版でめちゃくちゃ印象が変わります

上は日本版。

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こちらがインターナショナル版。

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別パターン。

前にも言及してますが晴雅集「陰陽師 とこしえの夢」@Netflix - すきなもの雑記

中国クリエイションのしっとり、繊細、静まり返った中の美、みたいな空気感が好きです

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このシリーズもすごい

公開当時ポスターの可愛らしさでTwitterが盛り上がっていた記憶がある

 

映画版はストーリー上の重大な改変点があります

逸勢は出てきません

日本の僧侶と中国の詩人がタッグを組んで玄宗楊貴妃の悲劇の真相を探る、というストーリー

映画でバディを組むのは白楽天です。

 

舞台裏は知らないけど、これ日中で製作めちゃくちゃ揉めたんじゃないの〜?と勘繰ってしまう。

中国では空海って誰ソレなんでしょうね

なのでタイトルを「妖猫伝」に変え、貴妃を守った黒猫をメインに見せた

そしてそれでも見れてしまうのがすごい

なんと行っても一番の見所は宴!

中国VFXの総力を結集させた映像美で本当に美しい。思い描いていた想像の世界が、こうやって素晴らしい映像になっているだけで感無量です

そして黒猫で物語の余韻をっかり感じさせるのは演出の力。

ラストの青龍寺のシーンもすごく良かった。

 

主演は染谷将太さん

中国語がどうなのかはわからないけど、意欲的に演じていたのでは

(私のイメージは鈴木亮平さんですが)

中国の作品はどうしても映像美に意識が行ってしまって役者さんの個性が見えにくい…

映像技術二の次の日本とは対象的で面白いですね