「歌舞伎とは鎮魂である。」
舞台を見ていると、その言葉が腑に落ちる
知盛もお岩様も何故に死にゆく様を克明に描写され、役者は演じ、観客は惹き込まれるのか。
亡くなった人の魂が安らかであるよう心を寄せる…ああ、お岩様、あの世ではあったかいふかふかのお布団でネコチャン抱いて眠ってくださいね、と。実際に四谷怪談を見ながら思ったことがある。
天日坊の原作者黙阿弥は江戸と明治を跨いだ作家で、自然災害の多い時代に加え、政策により翻弄される歌舞伎界に身をおいてきた。
当時の作家が感じた思いを役者が形にし、時代を越えて現代の観客に届くというのが古典芸能の非常に面白い点である
というわけで、宮藤官九郎脚本「天日坊」初演の映像を見た際に、コメディ部分というか笑いのバランスが気になった
法策が身の不遇を笑い飛ばすような性格造形ならクライマックスの詮議がまとまった気もするが、己の存在問う、というテーマにより中盤以降は内省的な面が強調される
そのため高窓太夫の惨殺シーン以降は(あれ、なんで前半笑いが起きてたんだっけ)と己を反省したくなるくらいシリアスな芝居になる
音楽も金管のメロディアスなテーマでスピード感があり立ち回りが映える一方で(あれ、略)と己の呑気さに疑問を持ってしまう
そもそも(原作ままの歌舞伎版を見たことがないので推測だが)、クライマックスの種明かしが原作通りだとしたら、黙阿弥作品の中でもきれいなオチがついていることになりストーリーだけでも十分に面白い。歌舞伎に小笑いはないので、むしろシリアスなロードムービー風の方がすっきりまとまるのでは…
などと考えておりました素人は。
なので、再演が決まった時も行かないつもりで。
がしかし、キャスト見て再考。
その時配役は出ていなかったけど、コレどう見ても鶴松くんが高窓太夫だよなあ〜
虎ちゃんが北条貞任だよなあ〜
再演なら桑名の船上イチャイチャシーンあるんだろうなあ〜
そして、
鶴松くん惨殺されるんだなあ〜と。
序盤の七之助さんの「お助けなされてくださいませ」の足チラも、虎鶴のイチャイチャもあれば見たいけど、いちばん見たいのは斬られる高窓太夫の芝居だった
あれがキマったらけっこう鶴松くんの今後が変わりそう…!
で、チケット無理だったら諦めようと思っていたところ、意外と取れる
しかも当日現場に行くと2階席2列めドセンで前後横が空席。2列めを取ったのは2階席あるある。最前だと座った時手すりが舞台と視線の間に入るため。
頼朝の落胤を騙る天日坊(実は敵対する木曽義仲の子)が猫間の元家臣と共に源家への復讐を果たす物語、頼朝の家臣である大江廣元の詮議をうまくかいくぐれるのかー?というのが主なあらすじ。
初演からカットされる部分もあるだろうなあと思いましたが、ぱっと思い当たるのは竜宮城くらい。客席降りができないので少しずつショートしているのかもしれません。
映像を見た当時印象的だったのは衣装とセット。
初演の衣装は…何と言うか、
肩パットの入った布団
あと詮議を受ける勘九郎さんの髪型が濡れたサイヤ人みたいでした
衣装の肩パットはなくなってた。あまり布団ぽくもなかった
詮議の大江廣元が久助から早替わりするのも変わっていました
衣装ではないけど、今回は勘九郎さん白塗でした
セットはほぼ変更がなかったと思います
ほとんどの場面で小屋を用意
2つの小屋を移動させたり並べたりして…セットチェンジを少なくしているのかな
例えば冒頭、猫間の化け猫退治の様子と観音院の居間での久助の語りを並行させたり、お三婆と観音院の殺害を並行して見せたり
黒衣が小屋を動かしている中で芝居をしたりします
立体的な紙芝居のような雰囲気で小屋の幕の書込みに場の名前が記されており、それはけっこうわかりやすかったです
小屋から退場する役者は小屋を出て舞台上を歩いてはけるのが地味に面白いです、映像だとそこまで見えてなかったので。
音楽もほぼ前回と同じ。
オケボックス(前方左右のスペース)が客席(2階席)から見えるのってすごく良くて、生音の素晴らしさを実感します
映像では旋律が単調かなと思っていたけど、生で見ると気にならない
1部の幕引き後もしばらく音楽は続いて、観客も手拍子。手拍子といえば、2部の幕開きかな?ジャズっぽい裏拍が途中で3拍子になったんですが、コンマスさん?黒幕から手を出して客席に指揮したのか(わたしは見てなかったけど)手拍子がぴたーっと3拍子に揃って感動した
手拍子でモメてる宝塚界隈を思い出して笑った
続いて立ち回り、
奥行きはあるけど幅の狭い舞台の特徴を生かして、円形を多様していたように見えました。棒で高低差も出していたので円形というよりは半球形のような。
舞台には何もなし。結構長い立ち回りですが、入れ替わり立ち替わり見せられるのはご兄弟だからこそ。スピード感があって本当にかっこいい!
けど最近は周りを見てしまうんですよね。チームワークでわかる座組の良さもある。
七之助さんの観音院の場が大好きで、
これは【ギア2 ぶりっ子】。よく女性を観察してるなーって感心します
怪しい怪しいと疑う久助から逃げるように観音院に隠れ、上目遣いできるように座ったまま「あの人ぉ…こ〜わ〜い〜🥺」と観音院の袖を振ります
酒を勧められた時、初演映像では「酔〜っちゃった」っと大人っぽく言いながら観音院にもたれかかっていましたが、今回は「酔っちゃった♥」って感じで首こてんってさせていました。
大川端でおとせ(鶴松)と豹変したお嬢(七之助)の
「そんならお前は…!」
「泥棒だよぉ」
というシーンがあるんですが、同じくだりが高窓太夫惨殺の前にあり、これが生で見れたのが嬉しい。
渾身の「この恨み晴らさでおくべきか」も良かったです。鶴松くんは健気な女方が本当に似合いますので…それにしちゃあ貞任の描かれ方が軽すぎてちょっとなあと思ったりもするのですが。
とにかく、大雪と言われていた日でしたが諦めずに行って良かったです