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直助権兵衛という男…NEWシネマ歌舞伎「四谷怪談」

ビジュアルイメージがサラリーマンのNEWシネマ歌舞伎四谷怪談」がオンデマンドに上がっていたので視聴しました

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まずは四谷怪談の登場人物をおさらいしましょう

民谷伊右衛門/獅童

討入に行かなかった塩冶浪人。女房お岩との復縁を求めるモラハラ夫。首を縦に振らない義父を腹いせで殺す。だが顔はいいので隣家(しかも仇の高家の家臣)のお梅に見初められお岩を邪魔に思い始める。死んだお岩の死体を戸板に結びつけ工作をし、お岩に祟られる

【お岩/扇雀二役】

伊右衛門が父を殺したと知らずに犯人探しを頼み、更に酷くなるモラハラに健気に耐える。とはいえ武家の妻としてのプライドもあり毅然とした姿も。毒で相貌が崩れても、どちらかというと強さが見えるところが好感度大。

【お袖/七之助

お岩の妹で与茂七の妻。直助にストーキングされている。風俗店のようなところで身体を売り客として来た与茂七と鉢合わせ。しかし与茂七は父と共に斬られ、その姿を発見したお袖は直助と仮初の夫婦となり直助に仇討ちを頼む。お岩が死んだ一方で与茂七が家に戻り、直助との間に立ち斬られて死ぬ。最期にお岩とは実の姉妹ではないことが判明する

【直助権兵衛/勘九郎

何とかお袖をモノにしたいため与茂七を斬るが、それは密書を届けるために着物を変えていた身代わりだった。ドブさらいでお岩の櫛を拾い、お岩の祟りの予兆を目にしつつ、戻ってきた与茂七と対峙する。しかし臍の緒書でお袖とは実のきょうだいだと発覚。契りを交わしていたため畜生道に堕ち自害する

 

獅童さんと扇雀さんの伊右衛門お岩はもちろん良かったんですが、解釈的に刺さったのは勘九郎さんの直助。私はここまで何度か言及してきましたが、勘九郎さんの冷たい役が大好き

今回でいうと、まんまと手に入れたものの身体を許さないお袖に対し、直助がしびれを切らして「寝よう」と言う所。その声と表情が容赦なく冷たくて放たれる色気が半端ない。役の解像度が高すぎます。原作が200年近く前の古典の登場人物がこんなに生々しくていいんだろうかと考えてしまう。

対照的に七之助さんは健気な役作りでこちらも解像度が高い。クシャナやヅルヨーダ姫のような強い女性の役が印象的だけど、上目遣いの似合う可愛い役も七之助さんの得意とするところです。こんな組み合わせを見せられてしまうと芝居に乗らない部分に色々と思いを巡らせてしまいます。最後はお袖が実の妹だと気付き、死を選ぶ直助。二人の演技によって、南北の突拍子もない展開がスピードを上げてこちらに向かってくるようでした

現在はお岩様の祟りを中心に描いた南番が一般的ですが、南北の王道の「因果」が展開する北番は、より歌舞伎らしさを堪能できるストーリーとなっていると思います