すきなもの雑記

話したいことを話したいだけ

充実の座組で道頓堀も大混雑の巻 立春歌舞伎@大阪松竹座

日帰りで大阪松竹座に行ってきました

なぜなら…

①安くて良い席が残っていた(発売日にもぎ取ったわけではない)

②見たい演目がかかる

③役者が豪華

今回は別名中村壱太郎奮闘公演でしょうね。連獅子以外でほぼトップコンビ役どちらかを努めていました。米吉くん新悟さんと合わせて、どんな役が来ても期待して見れる、自信を感じるし体力もある、そんな旬の役者さんだと思います

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私は義賢最期が好き。

小万姐さんが歌舞伎の役の中で上位に好きな役。だけどこのあとどうなるのか見たことがなかった。そのため今回、源平布引滝が通しでかかるので行きたいと思っていました。そんな中チケットWEB松竹を見たら3階通路横が空いている…!結果、往復交通費の1/3の値段で観劇しました。目的に対して比率がおかしいけど笑

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でも、よく見えるんですよ

 

 

今回改めて義賢最期を見て思いましたが、アクロバティックな展開もさることながら義太夫が良いんだと思う。吃又みたいな息を呑む語りがぐいぐい引き込んでくれます

ちなみに義賢は源義朝の異母兄弟、木曽義仲のお父さんにあたるそうです…ということは葵御前のお腹の子は義仲なのか??(違うっぽい)

というわけで、小万(壱太郎)に源氏の白旗をあずけて死んだ義賢(愛之助)。次の場では海に飛び込んだ小万を斎藤実盛(愛之助)が救い、源氏の白旗に気づいて強情な小万の腕を切り落とします(竹生島遊覧)

実盛物語では九郎助と太郎吉と匿われている葵御前のもとに瀬尾(鴈治郎)がやってきて実盛と御子の詮議をしますが、元を正すと小万は瀬尾の子。実の孫であると気づいて太郎吉に刀を引かせるというラスト10分のどんでん返しのすさまじい最後。

葵御前の千壽さんはルパン歌舞伎のマモー軒役でしたよね。あの時も煽る役でうまいなあと思ってましたが今回愛之助さんの言葉通り、お弟子さんの活躍が光ってました

亀鶴さんもたくさん出ていたし、脇のいい味で長い芝居が締まっていたと思う。

 

さて、目当てだった源平布引滝が霞むほどものすごい爆弾を落としていったのが夜の部最後の曽根崎心中でした…

お初徳兵衛って有名ですよね。今回初めて見たんですが、冒頭の壱くんお初がけんけん氏徳兵衛に駆け寄るところからもう恋する二人。男女カップルの芝居だったらリアルでも付き合ってるよね!?って勘ぐるほどの密着度。壱くんが右近くんしか見てない。客を見てない。めちゃくちゃいちゃいちゃしておる。

私が見た日は、壱くんが「二人で死ぬしかない」みたいなことを言った時のあまりの可愛さに右近くんが途中で泣いてました。でも、私もあんなに可愛く面と向かって言われたらほだされて泣くと思った。お初は遊女なので苦界で生きる身の上を冷静に見ていて、役者さんは一般人よりそういうこと勉強しているだろうし、どちらも女方をやる役者さんだし、そういう思いをまっすぐ乗せられる二人だからこその芝居だなと思いました。心中モノだし途中で飽きるかなと思っていたけど最後まで集中して見れました。ここでも亀鶴さんが九平次として好演。その隣に遊女として座る吉太朗くんも美しすぎて、縁の下からお初の生脚に頬ずりする右近くんという構図もやばすぎて、帰り道は文字通り放心しながらの新幹線でした

 

ちょいのせはお染久松モノで松竹梅湯島掛額のような後半人形振りの演目、今回扇雀虎之介親子は連獅子のみの参戦。ラストの毛振りが親子で少しズレもなくてすごかったです

 

大阪松竹座は道頓堀近くなんですが、通りの人がすごかった…今回も道頓堀今井に寄る野望は叶えられずでした

 

 

区切りの場としての新春浅草歌舞伎

現座組ではラストとなる新春浅草歌舞伎に行ってきました

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まずは演目を見てもらいましょう

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十種香、私は好きだけど歌舞伎座で見たときは席がガラガラだったから興行側もおいそれとかけられないだろうなと思ったんです。熊谷陣屋もどちらかというと玄人向け。だけどファンの反応は今回古典がてんこもりだって、好評だったんですよね。プロデューサーは頭抱えるだろうなと思いました。

では各演目の感想

 

十種香

私が歌舞伎ばぶだった頃に歌舞伎座で見た作品。死んだ恋人にそっくりの庭師が現れて…!?みたいなミステリーとラブストーリーをかけ合わせた展開で面白く見た記憶があるんですが、今回はあんまりしっくり来なかったかもしれない

源氏店

ついさっきまで八重垣姫だった米吉くんが眉無しで出てきて、本当に誰かと思った。空気を作るのに顔の輪郭(米吉くんは割と丸顔なので)は必要ないんだなと思いました。空気が江戸に生きるご新造さんのお富だった。はーさんの几帳面そうな面が役に活きてくるとなお良いと思いました。今回は本当ににざ様に見えた。松也さんの蝙蝠安は評価が分かれたっぽい。私はストプレっぽさが良いと思いました。

どんつく

センター巳っくんが軽妙なようでいて1枚脱いで汗だくだったので顔に出さない運動量に驚いた。私が見た日のグレイテスト・カショーマンはけっこう落としてた気がするけど難しいことやってんな〜と思いました。心意気に拍手。

熊谷陣屋

評価の軸と好き嫌いの軸の違いが良くわかりません。劇評を読んでそのとおりだと思うこともあるし全く違う感想だったりもする。私は、板の上では演者の気合が見えれば、割とOKだったりする。この熊谷は全員の気合がすごくて、歌昇さんの花道の入ですでに満足していました。そして駆け込んできたまるる藤の方の横顔が鬼気迫っていて、こんなまるるも初めて見たかもしれない。まるるも米吉くんと同じで若い役が当てられがちだけど、母役をしっかり演じていました。

流星

家話で種ちゃんが「本来の衣装はふんどしのみ」って言ってて、私は贔屓の浮かれ坊主的な衣装を見てみたかったんですが、今回は中華っぽい上着を着ておられました。この演目だけ1人舞台。高速でお面を付け替えてました

(ここで退出したので魚屋宗五郎は見れませんでした)

 

次期浅草組を予想してみると…

単純に今回の歌舞伎座昼の部の舞踊がプレお披露目なのかなと思いました。

成駒屋兄弟と大ちゃん虎ちゃん玉太郎くん…かな。ここに、残ったはっしーとまるるを加えるのかなと思ってます。当初は染團左近を柱にするのかなと思ったけどこの予想した座組はバランスが良く感じました(と言ってみたものの今回歌舞伎座は見てないが)

勝手な好みですが、20代の役者の中では大ちゃんの実力が突出している印象です。踊りと所作が素晴らしくて声もでかいから何でも似合う。吉太朗くんも良い。女方は可愛いし立役のシルエットもきれい。姿勢がいいのかな。できれば浅草で見たいですね

 

なんて言いたい放題だけど、誰が選ばれても来年の浅草も楽しみです

 

劇場に治安について考える「西遊記」@明治座

さて、1階以外はもはや人権がないと思っている明治座ですが

愛之助さん主演「西遊記」のチケットをお譲りいただき1階で観劇してきました。

ストーリーは牛魔王鉄扇公主の話をメインにしたものでメタっぽい展開もあり現代的な演出もあり、内容に特別に感動したとかそういうわけでもなかったんですが、まとまりがあって最後は泣けて、役者は芝居がうまく、満足度が高かったです。セットは明治座で前も体験したパネルを使ったもので、映像の演出はとても良いのですが、やっぱり派手なセットが盆回りするスケール感にはかなわないなと思ったのでした

最も感動したのは客席の治安

今回の出演者は舞台俳優の方が多く、歌舞伎や宝塚などでよく見かける物見遊山的な観客ではなく何度も同じ演目を見る熱心な出演者のファンの方が多かったように思います。そのため一度幕が開くと客席は水を売ったように静か。満席の劇場で着信音なし、ビニガサ音なし、途中入場なしの素晴らしい観客マナーでした。

午前に新橋演舞場に行っていたため、この違いは顕著に出ていました。歌舞伎って親族に誘われる、関係者、席が空いてるから埋めに来た、みたいな受動的な観客がある程度いると思うんです。役者や歌舞伎に対するリスペクトがなければ態度もそれなりですよね。また客層の年齢が高いのもありますね。電子機器に詳しくないこともあるし老眼で面倒っていうのも一因なのかなと思いました。

 

個人的には劇場も役者もスマホにあまり神経質になるのはちょっとな。幡随長兵衛でも芝居中に乱闘があるように、何事にもおおらかだと良いんですが。

今年の新春は新国立劇場で!「国立劇場歌舞伎公演」

新国立劇場中劇場での初春歌舞伎公演を見てきました

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国立劇場時代、こんな立て看板ありましたっけ?

仕事ではフォントとしてたまに勘亭流を使用することがありますが、筆で書けるというのは本当に素晴らしいですね。

中劇場の特徴としては、ラウンド状にカーブしているという点、あと花道が作れないという点です。古典で花道がないと、基本の形などういう進行が知らない演目だと本来の見どころがわからないことになります

演目は

梶原平三誉石切(石切梶原)

芦屋道満大内鑑  葛の葉

勢獅子門出初台

の3本です

 

石切梶原

梶原平三(菊之助)は平家方だがかつて石橋山の戦いで頼朝の命を助けた事がある人物。大庭景親(彦三郎)と俣野景久(萬太郎)らと、鶴岡八幡宮にて六郎太夫(橘三郎)と娘の梢(梅枝)から刀の鑑定を頼まれる。刀の切れ味を試すため、六郎太夫は梢を家に戻らせている間に自らの身を差し出すが、梶原は持ち前の腕で罪人のみを斬り分ける。これにより刀の力は証明されずじまいとなったが、大庭俣野の去った後に梶原が斬った石の手水鉢は真っ二つ。刀の実力と源氏への信頼を寄せた梶原なのであった

 

菊之助さんの今回のメインの役どころですね。スッキリとした二枚目です。主役はかっこよく見せ場もあり、健気な娘と善良なお爺さんと三枚目の罪人(亀蔵さんの剣菱呑助)が登場、話も1時間程度でまとまっているので古典の割によくかかるんでしょうか。梶原景時への理解がないと幕が空いた瞬間に「?」となってしまうので前知識が必要です。

 

葛の葉

このように、陰陽師の旅は続いてきました

そしてその後、歌舞伎座でやったんだよなぁ……

芦屋道満猿之助さん。芦屋道満大内鑑は近年通しではかかっていないそうですが、猿之助さんは勉強してそうだな。

さらにさらに、映画「陰陽師」を思い出してみましょう。野村萬斎さん(安倍晴明)の敵役として、出ていましたね、真田広之さんの芦屋道満

 

保名(時蔵)の妻、葛の葉(梅枝)は実は狐の化けた姿。本当の葛の葉姫が保名の元を訪れたため、正体を明かし、子(のちの清明)を残して家を去ろうとするが…

 

梅枝さんの早替り(女方って珍しいよね)、口で筆をくわえ障子に文字を書く曲書き、立ち回りなど、こんなに女方が大活躍の演目は…「義賢最期」の小万姐さん以来だ!という感じでした。こんなに葛の葉で大活躍なら石切の梢が吉太朗さんでも見たかったかも!女方メインの吉太朗さんが今回鳶だけだったので見たりないよー!

というわけで、ラストの勢獅子はおやじさまの登場を待って打ち出し。お子様たちも立派でした

 

バランスの良い座組@新橋演舞場初春公演

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新橋演舞場の初春公演を見てきました

演目は「平家女護嶋」となっているのですが、軽く調べるだけだと「鬼界ヶ島の段(俊寛)」以外のあらすじが出てきません。現在では他の場はかからない模様。しかし今回は後段にあたる三段目の「朱雀御所の場」も続いており、どのくらい忠実なのかはさておき、貴重な観劇となりました

 

朱雀御所の場 あらすじ

朱雀御所の常盤御前が夜な夜な男を引き入れていると噂になり、詮議を命じられた実盛。入口でひな鶴という少女を助けます。笛竹という女童を実は牛若丸と見破り御所に入ると、常盤御前は源氏再興のための味方探しをしているのでした。

立ち回りのあと、ひな鶴が探していた父というのが実盛のことだったと判明します。大団円(源氏再興のため寝返り)かと思いきや、イヤホンガイドでは「実盛は生きる道は変えられないと悟りひな鶴との別れを決意」と解説されていたようです。アッ…そうなんだ。ぜんぜんそこまで計れなかった。となりました。歌舞伎座できちんと復活狂言にしたら面白そう。立ち回りでは実盛と常盤御前の早替り、笛竹から牛若丸のぶっ返りがありました。

児太郎さんが序幕ぜんぜん出てこないと思ったら後半は大忙しの二役。

團十郎さんの座組を見ることがあまりないので、主に團十郎座組に属している男女蔵さんを久しぶりに見ることが出来て良かったです。悪役の中ではお若いので、ボリューム感とか力強さに勢いがあります。孝太郎さんもおり、立役女方ともにバランスの良い座組だと思いました。

 

新橋演舞場について。

今回上手側3階席正面に座ったんですが、見えるものが少なすぎてストレス。視線の先に人の頭があるのはしょうがないとして、花道モニターがない(サイド席の上手側モニターは上手側舞台を映している)し、もちろん客席降りは何もわからない。ルパンの時は下手側正面で通路側だったのでストレスは半分くらいでした。なので演舞場と明治座の上手側はいくら安くても通路側以外は座らない絶対…と誓いました。舞台がフルで見渡せれば花道と客席降りが見えなくてもあらすじは追えるはず。

やはり演舞場と明治座は1階席の通路側、できれば天井が被ってくる15列より前じゃないときちんと感想が残せる観劇にならないなと改めて思いました。

 

ドルビーシネマで難敵「1789」を見る

有楽町のドルビーシネマで宝塚星組の1789を見てきました。月組版は最後まで見れず、私にとっては難敵の演目です。(ストーリーも曲も刺さらず)

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ショーアップされたミュージカル部分には沢山の見どころがあります。

【礼さん】

主人公ロナン。ロミオと同じように礼さんに合う役だと思う。素直なんだけど途中で学歴コンプに陥るような影の側面も…というと「赤と黒」に通ずるところがあるのかもしれない

【なこちゃん】

月組公演の際に2番手格の娘役が演じた侍女オランプ役。前回アントワネットが歌っていた「許されぬ愛」という大ナンバーを担当。中の人の雰囲気が活きる役でロナンとの自然なカップル感が良かった

【くらっち】

華やかなアントワネット、恋に悩むアントワネット、運命を受け入れたアントワネット…と様々な側面を演じる。番手に関係なく先輩が演じたほうがオランプとの関係をうまく表現できるんだなと実感

【ありちゃん】

デムーランは出番は多いけど見せ方が難しいと思う。デムーランを見ながら、今回ありちゃんは代役でロナンをやったんだよな…という事実が頭をよぎり、見てもないのに礼さんのセリフをありちゃんだったらこういう感じで言うだろうなと脳が自動再生した。ありちゃんはつくづく試練を与えられる巡り合わせなんだなと思う。それをひたすら真面目に乗り越えて成長の証が見えるのが素晴らしい

【瀬央さんとぽんさん】

前提で瀬央さんとぽんさんが同期なのがインプットされているので、悪役のヒエラルキーがはじめ良くわからなかった。首謀者がアルトワで実行犯がペイロール、その手下に三馬鹿トリオがいると。3人の中で私はちゃりお君しかわからなかったんだけど、フェルゼンに匹敵する役付きの良さだと思った

【あまと】

ありちゃんが月組時代に演じていたフェルゼンよりは安心して見れたけど…アントワネットとの恋愛の相手として考えるとものすごいツバメ感がある

【ほのかぴ】

彼女がトップ娘役になるには何が足りないの?すぐにでもなってほしい、というくらい仕上がっている。農民の兄妹という設定が非常によく表現できていて、幼さと艶っぽさが同居した複雑な役に仕上がっていた

 

 

ここまで書いて来て気付いたが、「1789」には見方によってポジションが変わる人物が多い

オランプは父がバスティーユの火薬庫の門兵なのでたとえ地位は低くても兵士の娘、という扱いになる。農民のロナンとは身分に差がある。一方で宮殿の中では下層に属するようだ。

デムーランたちは第三身分という、三部会に出席でする中で一番下の身分ではあるが裕福な平民の出身であり、ロナンとは生まれ育った環境が違う。

ここが話の重要な部分であり、わかりにくい部分である。視点が主人公に絞られる作品とは違い、群像劇で視点が移動すると各登場人物のポジションがぼやけがちになる。特に今回はフランス革命という史実が元になっているため歴史に忠実にストーリーが展開する。「ロックオペラ モーツァルト」を見た時にモーツァルトの生涯を描いて終わるのかあ〜と感じたのに似ていると思った

 

映画の色味が全体的に抜けている感じで冒頭は「カラーグレーディングし忘れた?」と思ったくらいだった。さらに照明のあたっている所はノイズっぽくなっていたので収録時に設定ミスでもあったのか。このまま配信すると他の作品に比べて「色味変じゃない?」となる気がする。

 

 

 

同年代の冒険…流白浪燦星@新橋演舞場

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ルパン歌舞伎の配信が終わったので、観劇の思い出とともに振り返っていきます

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の前に買い出し!平日昼だったのでチョウシ屋でメンチカツとコロッケのミックスが観劇メシです。水色の包み紙が眩しい…!周辺にはカフェが結構あるんですが、演舞場の地下に東(あずま)という休憩スペースがあることを初めて知ったので、今度はコーヒーでも飲んでみようと思います

【あらすじ】

不老不死のからくりの体を持つ古の王が封じられた雷の岩。封印を解くには卑弥呼の金印が必要なのだが、金印を取り出すには赤い目の古の民が雄龍丸と雌龍丸という対の刀で斬りつけなければならない…

真柴久吉(彌十郎)が何らかの情報を持つと知りルパン(愛之助)次元(笑三郎)と五エ門(松也)と銭形(中車)は聚楽第に乗り込むが、ルパン次元は逃げおおせ、五エ門は牢に囚われてしまう。ルパン次元は五エ門をつづらに入れて運び出し救出する。久吉の近習頭・長須登美衛門(鷹之資)は古の民の末裔だが、恋人五エ門が刑に処されたと勘違いし悲しむ傾城糸星(右近)が同じく赤い目を持つ古の民だと知る。糸星の元を訪れたルパンと五エ門は自分たちの戦いに決着をつけようと立ち回りを繰り広げるが、からくり屋(猿弥)の追っ手から逃れたはずの糸星と不二子(笑也)は連れ去られ金印の封が切られてしまう。糸星は古の大王に体を乗っ取られる前に五エ門に自らを斬るよう頼む。糸星と両刀から生まれた剣を斬鉄剣と名付け、稲瀬川さながらの名乗りを上げて幕となる…

 

元々ルパン三世のアニメシリーズは沢山の演出家や監督の手によって多様な解釈があります。ルパン歌舞伎はその中でも古典歌舞伎を舞台にこのままアニメ映画にしても楽しめそうに感じました。確かアニメシリーズに今回のラストのような歌舞伎の名乗りがあるんですよね。

成功の一因としては、キャラクターの造形をアニメシリーズに寄せにいった点が挙げられます。もっとわかりやすく言うと、愛之助さんも中車さんもルパンと銭形の台詞回しがキャラクターのモノマネで、見る前はそこまで寄せないんじゃないかと思っていましたが、寄せて正解だったと思います。ストーリーも適度に複雑で、かつ、だんまりや本水など歌舞伎のお決まりの演出方法を取り入れて3時間があっという間に過ぎていきます。さらにビジュアル担当(おそらく)の松也さんと右近くんの恋愛模様があり配役のバランスの良さも助けになりました。そして鷹之資さん…大ちゃんの役回りが良く見ごたえがありました。とうかぶの大ちゃんも良かったけどルパン歌舞伎も良かった。全体的にキャラクターチックなため、古典的な人物が一人いることで物語が浮かず見せ場もたくさんありました。

 

さて、今回のルパン歌舞伎は「笑ってコラえて」のコーナー、歌舞伎座支局の旅の中で舞台裏が紹介されています。支局長の戸部さんは紀尾井町家話はじめ配信トークの仕切りでもあり、様々な歌舞伎のドキュメンタリーに顔や声が出ており、脚本に名前が載っている作品はいくつも見たことがあります。松竹の社員だと思うんですが、メイン業務は何なんだろう。会社員やっててこんな働き方してる人いるのかと。松緑さんが戸部呼ばわりするところは制作進行っぽいけど、猿之助さんが配信の弥次喜多で段取り悪すぎて勝手に監督までやらされたって愚痴ってたり、何かあると幸四郎さんに話を持っていくっていうのは戸部さんが過去のインタビューで言っていてそこはプロデューサーっぽいし、以前の配信で種ちゃんに演出の変更を相談して、その節は…って謝ってたのは演出っぽかった。

なんだかいろいろな役割を担っている戸部さんだが今回初演出らしい。同年代の松也さんは一足先にとうかぶで演出デビュー済。興味深かったのは、外部の出演が多い松也さんはできるだけ幕の閉まっている時間を生まないような演出をしており、現代の演劇的なエッセンスを取り入れて客の集中力を途切れさせないようにしていた。これは以前猿之助さんの演出でも感じたこと。戸部さんの演出は歌舞伎の舞台づくりに忠実で、菊五郎さんの年始の歌舞伎に近い。レトロな入れごとを多用していた。歌舞伎座支局にの中では脚本が仕上がってなかったが、ストーリーは盛り上がりがあってうまく出来ているなあと思いました