良すぎて良すぎて翌週1等を買い足しました
元々スーパー歌舞伎や弥次喜多といった澤瀉屋関係の新作歌舞伎は正直に言うと派手派手しくて映像ではあまりハマりませんでした
三国志初演は見たことがありませんが、出演者インタビューで口を揃えて言われているのが「スペクタクルは減った、芝居の比重が増えた」。
この、芝居の比重が増えたのが私には良く思えたのかもしれません
演出で言うと、1部ラストの長椅子での劉備(笑也)と関羽(猿之助)。
桃の花の香りがすると言って目を閉じる劉備、隣に座る関羽、おもむろに関羽の膝に手を乗せる劉備とゆっくりとその手を取る関羽、目を閉じた劉備を見つめる関羽は微笑んで同じく目を閉じ、二人には桃の花がちらちらと散る…(幕)
もう1つ、関羽が荊州の人質と命を引換にしようという場面。男同士の宴で最後に好きな女の話をしようということになります
笑いも混じりながら最後に関羽は玉蘭の名を挙げます
劉備の本名だから兵士は誰も知らないわけで、「蘭のように美しいのでしょうなあ」という言葉に対し「いや、桃の花のようなたおやかさだ(意訳)」と返します
私は澤瀉屋が好きだけど、それは古典に対する型の丁寧さとか座組の雰囲気とか立ち回りの気合とか、歌舞伎に対する姿勢においてのことでした
新・三国志の、今まで澤瀉屋では見たことがない芝居の純度の高い舞台で情緒の描き方があまりにも真っ直ぐで真摯で、すっかり今回の演出にやられてしまいました。泣いた。
役者の話をし始めるときりがないんですが、澤瀉屋ファミリーの笑三郎さん猿弥さんは軍師で存在感たっぷり、弘太郎さんは青虎を襲名され(しかも青き虎っていう台詞が入ってた)諸葛孔明を演じます。あんまり見ない(失礼笑)爽やか系のお役です。
猿四郎さんの立ち回りお見事、寿猿さんも活躍されています
團子さんは関羽の養子、関平として存在感あり。声デカの系譜を継いでいてとても良いですね
張飛役の中車さんはとにかく顔がデカい笑
猿弥さんと並んでも1.5倍くらいあるんだけど。
冒頭、中国史をおさらいするコーナーにも出てきます
客演で浅野和之さん、浅野さんはマイクをつけているのが見えます。それ以外全員つけてないの?マイク立ってないし、どうなってんでしょう
若手では孫権役に福之助くん、普段から四代目の舞台によく出てますよね
そして香溪役の右近くん、本当に今乗りに乗っている。ハズレがない。香溪のまあ美しいこと。劉備はお化粧に紅をさしていないので、香溪の京劇っぽいメイクがより際だって美しく見えます。単純にお化粧が上手い。
香溪といえば、衣装と頭の飾りがとても豪華。
衣装は歌舞伎のものとも違えば普段舞台で見るようなものとも違い、切りっぱなしを重ね合わせたり模様を縫い付けていたり絞り染めのような部分もあり。
今回、中国の歴史に疎くても入り込みやすかった理由として三国の衣装が色分けされていたことがあります
曹操軍は紫、孫権軍は水色で統一されており、劇中の勢力図も同じ色分けのためとてもわかりやすかったです
劉備軍は最初はモノクロで一部刀の房やインナーが赤かったくらいなのに、土地を得ることで全身が赤くなっていきます
婚礼の場は柱も長椅子も赤で後ろには本火が。
炎や水が本物になるだけでなんか没入できますよね
音楽が生じゃないのが………唯一残念な点です…
テーマ曲がめちゃくちゃ良いので、オケ組んでできたらもう他に望むものはない
あとは黒御簾音楽をもうちょっと使ってもいい気がしました。音が生演奏か録音かは客席で聞いていると臨場感が違う。今回3階Bと1階花外で見て、気のせいならいいのにと思いましたが、やはりどこに座っても生音がいいですね
最後は完全に雑談。
筋書を読んだ時点で(宝塚っぽいなー)と思い、開演の雰囲気で(アレ?宝塚来ちゃった?)となり、さらば、という台詞を聞いて(退団公演であるやつ!)となりました
劉備が実は女性で…という設定はベルサイユのばらのオスカルを彷彿とさせますよね。
トップコンビで関羽と劉備、2番手から孫権、孔明、張飛、関平となって娘役2番手が香溪、曹操は専科から…と恐ろしいほど配役も進みます笑
けっこう見ながら(ここでソロ歌唱でしょ!ここで群舞でしょ!)と突っ込んでました。
歌舞伎座でやってすごく良かったなと思ったのが宙乗り前の演出。カーテンコールではないけど、出演者が順に本舞台から花道を通り揚幕へ退場していきます。これは歌舞伎の劇場でしかできないめちゃくちゃいい演出…!
そして最後、宙乗りの花吹雪は客席へ。
桃の花を浴びながら、天に昇っていく猿之助さんを見ながら、本舞台の大きな桃の木が咲き誇っているのを見ながら幕になるわけです
猿之助さんの関羽はものすごい説得力で乱世を生きていて、この吸い寄せられるような魅力をうまく言葉にできたらいいのにって思います
でも言葉にできちゃったら面白くないのかな
これが初めて現場で見た新作歌舞伎でした。最高だった!